Novel2

□※咄咄怪事
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「は…穿いたけど…っ」

臨也は半ば泣きそうになりながら、着替えたトイレから顔を覗かせる。
それに気がついた静雄は、にやり、と笑った。
普段ならかっこいいと素直に感じられるのだが、今はそのかっこよさが恨めしい。
真っ赤な顔のまま、臨也はトイレから出られずに静雄から視線を逸らした。



…と言うのも。
臨也は、今日久し振りに静雄と会った。
仕事の都合で遠くに出向いていたお陰で、彼と会うのは2週間ぶり。
と言うわけで、素直なくらいに嬉しさを滲ませながら、静雄の家に来た。

「久し振りだね、シズちゃん」

「そうだな…
そういえば、今日で3ヶ月だったか?」

…付き合い始めて、今日で丁度3ヶ月。
喧嘩ばかりしていたのに、何がどう転がったのやら、気がつけば好きになっていた。
しかし勿論、プライドの高い臨也が喧嘩相手にそんなことを素直に言えるはずもなく。
虚しく終わりの見えない片想いを抱え続けるものだと思っていたのだが――

3ヶ月前の今日、静雄に告白された。


「何かお祝いとか、さ!
忙しかったから何も用意出来てないんだけど、何か出来ることあればするよ?」

覚えていてくれたことが嬉しくて、臨也は満面の笑みで無邪気に言う。
――すると、静雄は思い付いたように立ち上がり、別の部屋へ行った。
戻ってきたその手に握られていたのは、真新しいパッケージ。

「これ穿け」

「…なにそれ」

…悪い予感しかしない。
今までにこういうことがあったわけでは無いのだが、妙に楽しそうな笑顔は不自然としか思えず。
でも口にはせずに、それを受け取って確認し――
臨也は、顔面蒼白した。

「…なに、言ってるの?ふざけるのも大概にしたら?」

信じられない。信じたくない。
まず、なんでシズちゃんがこんなもの持ってるんだ。

「ふざけてねぇ」

「これでふざけてないなんてあり得ないよ!

あのさ、これ、ストッキングだけど!?」

…手渡されたのは、葬式の時に穿くような、黒いストッキングだった。
勿論、女物に決まっている。


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