Novel2

□※風邪ひきと寂しがり
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くわえた体温計が、軽い電子音を響かせて止まる。
それを唇から離し確認すれば、37度8分の表示。
はぁ、と普段より温度の高い息を吐き出して、臨也は体温計を机に起きベッドに身を沈める。

「最悪…」

呟いた声は、普段より幾分弱々しい。
今日の予定が書かれたカレンダーに目を向けないまま、臨也は瞼を閉ざした。

と、見ての通り、臨也は風邪を引いた。平熱の低い臨也にとって、37度台でも充分な熱であり、こうして安静に寝ているのだ。
今日は静雄と会う予定があったと言うのに、不運にも程がある。断った時の静雄の声と言ったら、電話越しだというのに露骨すぎるほどに落ち込んでいるのが分かった。勿論、臨也だって会いたかったに決まっているのに。

溜め息と共に不服を漏らし、仕方なしに寝ようとした時だった。

ピンポン、と軽やかな音が部屋に響いた。
誰だこんな日に、と思いながら玄関まで出ていけば。

「…シズちゃん?」

「よぉ」

立っていたのは、スーパーのビニール袋を片手に、見慣れたバーテン服を纏う静雄の姿。
きょとんとする臨也を他所に、静雄は当たり前のように部屋に上がり込みながら、「早く寝ろよ」と臨也を寝室に促す。
素直にベッドに入り、それから臨也はハッとした。
…何でシズちゃんここにいるの。風邪だから無理って言ったのに。
風邪で頭の回転が鈍っているのか。苦笑しながら、それでも顔をしかめようとは思えず。

「で、手前何か食ったのか?」

静雄はキッチンに入ったようで、大声でかけられた声に、食べてないと声を張る。随分弱い声ではあったけれど、じゃあプリン買ってきたから食え、と静雄は3個で1パックのプリンを持ってくると臨也の隣に腰を下ろした。

「風邪は食って寝るのが一番なんだよ。だから食え。プリンなら食えるだろ」

そう言いながら、その内の一つを取り開けると、自分で食べだした。自分が食べたかったんじゃなかろうかとすら思える動きの早さに笑いながらも、臨也ももらうことにした。
風邪を引いたのは残念だったけれど、こうして静雄が看病に来てくれるなら悪くない。

食べ終わればベッドに寝かしつかされ、臨也は従順に寝転がった。静雄は明後日の方へ視線を逸らしながらベッドの傍に座っている。
静雄は早く寝ろと言ってくれるが、具合の悪さが先立って一向に寝られない。身体は熱いのに、妙に寒い。
それでも、動いているよりマシだ。こうして静雄もいるのだから、特に何を心配する必要もないだろう。

…そう、思っていたけれど。

「…シズちゃんどうしたの?」

一向にこちらを見ようとしない静雄にそう尋ねれば、静雄はちらりと此方に目を向けただけですぐに逸らさた。臨也は首を傾げて静雄を見やる。
ねぇ、どうしたのさ。無意識に何か怒られることでもしてしまったかと心配になって、身体を起こすと静雄の服に手を伸ばしてきゅうと掴んだ。
折角静雄と会うことを諦めていたのに看病に来てくれて、こうして傍にいてくれていると言うのに、わざわざ怒らせたくない。
と、静雄は眉間に皺を寄せながら臨也を見た。
けれどしかめられたままの顔に、やはり不安を拭えず更に静雄のシャツを強く握り締めた時だった。

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