*爪立恋歌

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静雄は、その気持ちが不安定なまま葬儀に参列した。




『臨也が死んだ』

四木の切羽詰まった声が静雄に伝えた事実。
初めに聞いた時、まるで夢の中のように信じられなかった。

死んだ?
どうして、なんで、
勝手にいなくなって良いなんて、誰が、
誰が言った。

心の中で反芻しようと、その事実が変わることは無い。

嘘ですよね、
そう唇が動く。
しかし、四木の唇は動くことは無い。
苦し気に寄せられた眉が、嘘ではないと物語っていた。

…ぽたり、と涙が零れた。
事実として受け止めきれていないのに、涙だけは勝手に頬を伝い、顎を滑り落ちる。

四木は気遣ったように、葬儀の日取りを告げて帰っていった。

まるで子供のように泣いた。
頭が痛くて、目が腫れぼったくて、呼吸が苦しい。
それでも涙は止まらず、果てを知らないように流れ続けた。

どうしたら臨也は思い止まっただろう。
どうしたらもう少しでも生き長らえてくれただろう。
今更考えても、堂々巡りな自問自答。
所詮、自己満足に過ぎないのだ、と悟った。




参列者の中には、見覚えのある芸者もちらほらといる。
静雄の泣き明かした目は赤く腫れ、痛々しさは誰が見ても感じられた。


「静雄」

呼ばれて振り返ると四木が立っていた。
静雄は無理に笑い、頭を下げる。

「葬儀の手配とか色々…お疲れ様です、有難うございます」

「気にするなよ、臨也は俺が見初めて身請けしたんだから、俺が最期まで世話しねぇとな」

四木も、辛そうな表情を緩めて微笑んだ。
罪悪感。
言葉にするのは酷く簡単な、されど酷な感情が静雄を苛む。
――それを感じ取ったのだろう。
四木は静雄の肩を叩くと、言った。

「静雄が悪いんじゃねぇよ。
此処でテメエが懺悔って言って死んだって、誰も喜びやしねぇからな」

それだけ言うと、他の関係者の方へ歩んでいった。



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