*爪立恋歌

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少年は小さく笑った。

招き入れる現実にしては、嫌なほど落ち着いた心。
ああ、でもやっぱり悲しいのかもしれない。
でも、辛かったから。辛いから。

翳した終焉は光って、臨也の涙を映した。



***


感染したのが解って、数ヶ月。
臨也は気力の抜けた表情で天井を仰いだ。

痛い。
辛い。
怖い。

誰とも会いたくない。
けど、会いたい。


症状が悪化するにつれて、臨也は部屋から外出することも避けるようになり、人と会うことも拒むようになった。
元から細かった食すら更に細くなった。

症状が原因ではない。
ストレス。
自己嫌悪。
自分の身体が朽ちていくような感覚。
死にたくないのに、死んでしまいたい。
会いたいのに、会いたくない。
矛盾に矛盾を重ね、喘ぐ。



「臨也、入っていいか?」

四木は襖越しに呼び掛けた。
数秒の沈黙を挟み「どうぞ」と言う声が部屋から響く。
襖を開くと、臨也は薄く笑った。

食欲が落ち、痩せていた身体は更に痩せた。
袖から覗く手や首には花が咲き誇るように赤い発疹が白い肌に散っている。

痛々しい臨也に痛む心を隠して四木は笑って臨也に歩み寄り、隣に座った。

「どっか痛くないか?」

「はい、特には」

臨也はそう言って再び笑う。
…頭痛のする頭を隠して。

折角身請けしてくれたのだ。
それなのに、何も恩返しできないままに、梅毒。
死ぬしか道の無い未来。
何のために此処に来たのだろう。
シズちゃんと一緒に居るため?
四木さんを困らせるため?

緩んだ涙腺を引き締めて、臨也は綺麗に笑う。
自分を演じていた、あの頃のように。

気付かせないで、そう願いながら。




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