*爪立恋歌

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次の日、
静雄は四木の護衛の仕事を免職され、
近場に住んでいる、運び屋と医者をしている友人の家に、次の仕事が見つかるまでの間、置いてもらう事になった。

やはり、原因はあの夜の密会だった。
臨也はこのことを聞かされたら、どんな顔をするのだろう。
彼が、自分のせい、と思い悩んでいなければ、いいと思う。
でも、彼の表面の強さの裏の、儚いくらい脆い性格上、無理だろう。
いっそ、忘れてくれればいい、と思う。


***


「静雄は四木さんを恨んでないの?」

お茶を飲みながら、ふと、居候先の新羅が尋ねた。
1週間経っても沈んだ気分から抜け出せない静雄は、その問い掛けに息をついた。

「別に、恨んでない」

「なんで?静雄と、臨也って子を引き離したんでしょ?面従腹背が普通じゃないか」

そんな簡単なものではない。
どちらかと言えば、四木と臨也の間に入って、乱したのは自分なのだ。言葉にされなくても解る。
それなのに、四木を恨むなんて、お門違いにも程がある。
謝れるなら、謝りたいくらい。
そう、静雄は思う。
そうかぁ、などと言いながら、新羅は残りのお茶を飲み干した。

「でも、静雄、寂しいでしょ」

「――…」

無邪気、とも取れるような表情で言った新羅。
静雄は素直に答えられず、口を噤んだ。
新羅は、そんな静雄を見て、
不意ににやり、と、臨也が静雄を弄っている時のような表情を浮かばせた。

「でも、いくらずっと、静雄が臨也君を好きだったって、
必ずしも、彼が静雄をずっと好き、と言える訳じゃない。
近場にいない誰かを想うより、傍に居る誰かを愛する方がよっぽど普通。辛くない。」

胸の奥が、焼けるような痛みを催す。
同時に、苛立ちも募る。
事実を、誤魔化しようの無い正解を、言い当てられているからだ。

知ってる。そんなことくらい。
辛い思いを抱くくらいなら、近くの誰かを愛すべきなのだ。
もう会えない可能性の高い誰かを想う方が、無駄な時間。
解っている。痛いくらいに。

新羅は、笑いながら言う。

「会いに行って確かめたら?」

「馬鹿か手前は…」

会いに行けるわけが無いだろう。
自分一人の我が侭に、巻き込みたくない。



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