*爪立恋歌

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その日、静雄は四木に呼び出されていた。
呼び出しをされた時、いつにも増して真剣な面持ちの四木に、ただならぬものを感じた。

いつもは長く感じる廊下の距離が、妙に短く感じる。

部屋の前に着き、静雄は高鳴る胸を落ち着かせようと深呼吸をする。
出来る限り普段の表情を作ると、襖をノックした。

「入れ」

四木の返事。
静雄はもう一度深呼吸をすると、「失礼します」と言い、襖を開けた。

奥の座布団に、四木は座っていた。
彼に会いに来るのに、こんなに緊張したのはいつ振りだろう。
きっと、雇われて直ぐに呼ばれたとき以来だ。
静雄はそう思いながら、四木の前に膝をついて座った。

四木は見下ろすような形で、静雄を見て、
感情の無い声で言った。


「静雄、クビだ」


「…え……」

一瞬、耳を疑った。
聞くはずは無い――そう思っていたから。

震えた唇で、静雄はどうにか問い掛ける。

「どうして…すか」

「まぁ、理由はひとつしか無えけど…
別に、静雄だけが悪いわけじゃねぇ。
静雄は知らなくてもいいことだ」


彼に仕えて、3年にもなる。
それなりに仲が良かったつもりだ。
それなのに、理由すら分からないままに免職させられるなんて。
いくらなんでもやるせない。


「教えて下さ――」

静雄の震える声が、追求の言葉を紡いだ時だった。



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