*アイタイ。

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「大丈夫、異常は無いよ」

新羅は脈拍を検査し終え、静雄に明るい声で言った。
静雄はホッとしながら、臨也の眠るベッドの横に置いてある椅子に腰掛ける。

臨也が意識を失い、静雄はすぐに新羅の家へ連れて来た。
心配で仕方が無く、先刻まで座る事も出来ずにフラフラを部屋の中を歩き回っていた。

安らかな寝息を立てる臨也の寝顔を眺めていると、新羅が口を開いた。

「で、どんな風に倒れたの?」

「…いきなり頭痛いって言って、そのまま倒れた」

その時起こった出来事を淡々と告げると、
新羅は、「そうか…」と呟き、そして静雄をじっと見据えた。
何事かと、臨也へ向けていた視線を新羅へ向けると、
新羅は重たい話をするような空気を纏う事は無く、まるで仮説を立ち上げる小学生のように口を開いた。

「もしかしたら、その場所に記憶喪失になった鍵が在るのかもしれないね」

「本当か!?」

思わず椅子を蹴るように立ち上がった。
ぐらついた椅子はどうにかバランスを取り、がたがたと足踏みしながら元の位置に収まった。

記憶を取り戻せるかもしれない。
また、今までの臨也に戻ってくれるかもしれない。

「でも」

不意に口を開いた新羅。
静雄はその声にハッとした。

…今のままの方が幾分楽なのに、どうして臨也の記憶が戻って欲しいのだ。
多分、きっと、喧嘩がまた出来るから、で――

静雄の自問自答を知ってかしらずか、新羅は続けて言った。

「記憶から排除したくて忘れた事だから、無理に思い出させるのも良くないかもね」

「…そうだな」

…確かにそうなのだ。
また連れて行けば、もしかしたら思い出してくれるかもしれない。
でも、辛い記憶を無理矢理に思い出させることは、出来ない。
臨也の安らかな寝顔を見て、思う。



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