*アイタイ。

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その帰り。
静雄が自宅への道を歩いていた時だった。

数人のヤンキーが、誰かを取り囲むようにして丸くなっている。
ああいうのは、カツアゲが多いだろう。そんなの、誰でも分かっている。
でも、警察や正義感の強い人以外は、自分が助けてやろうという情も無いのだけれど。
そう思いながら尻目に通り過ぎようとして、はたと足を止めた。

黒い艶髪が視界に入る。
白い肌。紅い瞳。黒い服。
見間違いようが無い。
殴りたくて殴りたくてどうしようもない臨也だ。
1つ普段と違うとすれば、妙に怯えた顔をしていることだろうか。
ヤンキー相手に怯えた演技なんて、奴らしくない気はするが。

だが静雄は、無意識にその集団に歩み寄り、そのうちの一人の肩を引き寄せた。

「あぁ?なんだ貴様」

刈り上げられた頭のヤンキーの苛立った顔が静雄を見て、威嚇の目を一瞬にして強張らせた。
静雄、と言うよりは、静雄のバーテン服を見て、だろう。
他のヤンキーも此方に気がつくが、どうでもいい。
肩を引き寄せた奴の顔面へ頭突きをかますと、
ガン、という鈍い音と共にヤンキーは吹っ飛んだ。
臨也を取り巻いていた他のヤンキーは直ぐ傍で起きた暴力に顔を引き攣らせ、数歩下がる。
仲間の仇を、なんていう奴は一人としていない。

「んなことしてる暇があるなら働け」

言葉と共に指をゴキリと鳴らしてやれば、ヤンキーは蟻を散らしたように逃げていった。

続けて殴る予定で臨也を見て――
その表情に、殴るに殴れなくなった。
明らかに、怯えの取り去りきれて居ない表情をしていたから。
演技なはず…なのに。

「あ…有難う御座います」

臨也なはずの青年は、オドオドとしながらぺこりと頭を下げた。
静雄の頭の中は予想外の出来事にグルグルと混乱しだす。

声も、顔付きも、この身長差も、間違いなく臨也だ。
なのに…何だ?
俺の事が解ってない…?
否、知らない奴のフリ?
つーか、臨也だよな?



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