*アイタイ。

□1
1ページ/4ページ




靉靆
相対
あいたい

逢いたい。



***


「シズちゃん、こんな街中でよく俺を見つけるよね」

「くせぇんだよ、ノミ蟲がいると!」

池袋の日常。
漆黒の青年と、バーテン服の青年は、自身の武器を構えあっていた。
折原臨也は、ナイフの切っ先を平和島静雄へ向けたまま、不敵に笑う。
まるで、全てを思い通りに出来るような笑みで。

「臭いなんて酷いなぁ。
そんなことばっかり言ってると、今に痛い目に合うよ?」

挑発するような口調に、静雄は眉根を寄せ、臨也を睨みつけた。
静雄の手に握られた正真正銘本物の道路標識の柄が、彼の力によりぐにゃりと変形する。
しかし臨也は全く動じた様子は無く、
指輪の填められた人差し指を鬱陶しそうに浮かせて漆黒の髪をかき上げた。
指輪のシルバーは光を反射し、眩しく光った。黒髪に浮き上がり、妙に目に残る。

「テメエこそ痛い目見たくなかったら、今すぐ池袋から出て行け、一瞬で」

「無理無理!どっかの猫型ロボットじゃないんだから」

臨也は馬鹿にしたように言うと、一瞬のうちに後ろに走り出した。
逃がすか、と静雄は、片手に提げた道路標識を振り上げる。
普通の人間なら持ち上げるだけで一杯一杯だろう其れを、
まるでドッジボールのように軽々と持ち上げ、風切り音を響かせて大きく振りかぶった。
しかし臨也も、慣れたように小さく横に逸れただけで、それを軽々と避ける。
投げられ、受け止めるものが無くなった標識は、自身の重さに下降しアスファルトを穿つ勢いで叩きつけられた。

大道芸ではない。
サーカス集団でもないし、パフォーマンスでもない。
彼らは、今の全てを日常で、素のままにやっているのだ。
互いの苛立ちの感情ゆえに。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ