*アイタイ。

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あの日から数日。
告白前と大して変わらず、二人は毎日を過ごしていた。
変わったとすれば、記憶を取り戻すことを急がなくなったことだろう。
…そして、二人の心にも多少なりと変化はあった。


「静雄さん」

「あ?」

臨也の問いかけに、静雄はいつもの気だるい表情で臨也を見た。
そんな静雄を気にしながら、臨也はおずおずと問い掛ける。

「シズちゃん、って、呼んで良い?
多分、直ぐには呼べるようにならないけど…」

きょとん、と目を丸くした静雄だったが、
次の表情は優しかった。
記憶のある臨也には、見せたことも無いような優しい笑顔。

「好きに呼べ」

そう言って、くしゃりと撫でられた頭。
目を細めて、くすぐったそうに笑った臨也は、静雄の体温を求めるように肩に額を埋めた。


静雄さんは、優しい。
時々、眉を顰められたり、怒られたりもするけど。
だから、彼の『大切』な『臨也』になって、
その『大切』に自分が当てはめられるようになりたい、と思う。
同じ自分なのに、『臨也』という人物は、嫌に眩しく、手の届かない存在に思えた。
でも、元は喧嘩ばかりしていた仲。
もしかしたら。
そんな、期待。
記憶も思い出さないまま、「俺が臨也だ」と言い切れるようになりたい。
馬鹿だ、と罵られるかもしれないけれど。



その頃、池袋を走る一台のワゴンでは近頃の静雄と臨也について話されていた。

「この前、二人が仲良さそうに歩いてたの見たんだって!」

「ゆ…夢じゃないっすか?そんな同人誌みたいなこと…」

「ほんとほんと!私の目が見間違うわけないでしょ!?」

後部座席で騒がしく会話する狩沢と遊馬崎に対し、運転席と助手席は静かだった。

「…俺も静雄と臨也が並んで歩いてるの見たな…」

門田の呟きに、渡草は蒼白な顔になり眉根を寄せ、低く呻く。

「お前も狩沢たちみたいなこと言いやがって…!」

違う、と、それこそ激しく否定した門田は、
後部座席で相も変わらず繰り広げられる論争を耳からシャットアウトした。
窓の外に見えるいつもの町並みを流し見ながら、ぽつりと呟く。

「そういえば、あいつらの喧嘩、見てねぇな…」



***
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