*アイタイ。

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――静雄と新羅の会話の途中、臨也は起きていた。


『正直さ、びっくりしてるんだよ。
こんな喧嘩仲で臨也の記憶を取り戻させようとするなんて』

ふと耳に飛び込んだ言葉、だった。

二人の会話で目を覚ました臨也だったが、
あまりにも近い距離の会話だったため、突然起き上がるのは気まずい。
それに、俺は寝ているものだと思ってしている会話かもしれない、
そう思うと、起きるに起きられない。
…でも、先刻の新羅の言葉が気になって、更に眠れなくなった。

『……別に』

静雄の、曖昧さを孕んだ声。
勿論、臨也が静雄の心意を知りうるはずも無い。

『それにさ、静雄のことだから、無理矢理にでも臨也に思い出させようとすると思っていたのに』

新羅の楽しそうな声が響く。
確かに、静雄と言う人は多少なりと強引な面はあったりした。
でも、よく分からない感情が存在していて、どうしてか嫌いにはなれなかった。
勿論、世話になっているのに嫌いになるなど無礼にも程があるけど、
それとは違う、親しみのような、温かい感情が渦を巻いていた。

再び、新羅の馬鹿にしたような響きを孕んだ声がした。

『まさか、静雄がこんなに臨也に入れ込んでいたとは思わなかったよ』

その言葉に、訳も無く顔が熱くなる。
と、低く唸るような静雄の声が耳に届いた。

『うぜぇ…』

…思わず、唇が震えた。
『私は殴らないでくれよ』などとふざけながら新羅が言うが、
最早臨也の耳には言葉としか認識されない。

そして新羅は。
今の臨也にとって、決定的な言葉を紡いだ。


『でも静雄は、記憶がある方の臨也が好きなんだろ?』


解り切っていたことだった。
自分でも、記憶を無くした今が以前と同じ性格をしていたとは思えない。
しかも自分は、完全に知り合って数日の言葉遣い。
分かっている。
解っているのに。
なのに、胸が痛かった。

『…好きじゃねぇ』

『ふぅん』

その言葉に、どんな感情が篭っていたかは知りえない。
でも少なくとも静雄のその声音は、否定の色ではなかった。




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