*うた こい

□『花のように明るく綺麗に笑った。』
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「ようこそ、サイケ」

その日サイケはいつもより緊張しながら、津軽の家を尋ねた。
笑って出迎えてくれたことが嬉しくて抱きつけば、津軽はほんの少しだけその頬を赤らめてサイケを抱き締める。
同じように頬を綺麗な色に染めて顔を綻ばすサイケを、津軽は複雑な気持ちのまま見ていた。


津軽とサイケが初めて知り合った数ヵ月前。津軽は静雄に尋ねた。
苦しい。緊張。恥ずかしい。こそばゆい。でも気になる。だから、いつも視界の中にとらえておきたい。近くにいたい。
そんな、知能として組み込まれていない感情の意味を。
――と、僅かに考えて返ってきたのは、津軽として認めがたい言葉だった。


「ああ、きっとサイケのことが嫌いなんだな」


「…嫌い?」

そんな、まさか。俺がサイケを嫌いだなんて、そんなことあるはずがない。
そもそも、嫌いな奴の側にいたいなんて変わり者が何処にいると言うのだ。

「嫌い…ではないと思うんですが…」

おずおずと言えば、静雄は溜め息を吐いた。
何の自信だか分からないが、いや、嫌いなんだよ。と凄んで言うと、静雄はその頬を歪ませてこちらを見る。

「だって手前、それは俺も同じだ。臨也は気になる。鬱陶しいくらいに気になる。いつだって殴ってやりてぇから、いつだって側に縛っておきたいだろ」

それは少し違うような、と思いつつ、津軽は曖昧に頷いた。



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