*うた こい
□『気持ちだけは一杯な言葉。』
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走り去った臨也の背を見つめながら、静雄は呆然と立ち竦んでいた。
どうして泣いたのだろう。多分…否、間違いなく俺のせいな気がする。
…確かに、何となく様子はおかしかった気はするのだ。妙に俺の反応を気にして、言葉を選んで。
いつもは挑発されて苛立っていたはずなのに、そんな何処かよそよそしい彼に腹がたった。
…これじゃあ、サイケみたいな奴じゃなくて、鬱陶しい臨也が好きみたいじゃねぇか……って、好きって何だよ…ッ!?
自分の考えたことに自分で突っ込みながら、静雄は頭を掻いた。
次に会えるときは、いつも通りに戻っていますように。
そんなことを、思いながら。
***
自宅に戻ってきて、臨也は涙が溢れるままに泣いた。
寂しかった。切なかった。どうして、こうも上手くいかないのだろう。どうして素直になれないのだろう。
…でも、どうしたら好いてもらえるかも分からないのだ。俺みたいなのは、持っての他だというのは分かるけれど。
「情けない…」
喧嘩相手の一言で一喜一憂するなんて。…どうして、そんな奴を好きになってしまったのだろう。
…と、扉の開く音が聞こえた。目を向ければ、見慣れた白い姿が心配そうな顔をして部屋へ入ってくる。
臨也の隣に座り、どうしたの、と首を傾げたサイケに、笑ってやった。
「何でもないよ。つまんないから向こうでテレビ観てればいいよ」
しかし、サイケはその場を離れようとはせず。
視線を俯けて必死に思案した後、ピンク色の爪で彩られた手を、臨也の頭に載せた。何かと思えば、サイケは臨也の頭を不慣れな手つきでくしゃりと撫でる。
どうしたの、と問いかければ、サイケは覚えたての言葉を紡いだ。
「つがる、つがる」
――何となく察しはついた。
きっと、サイケは津軽に頭を撫でてもらうのが好きなのだ。何よりも元気をもらえるのだろう。
…そう言えば。
ふと、学生時代を思い出した。今の仕事に似たようなことに手を出し始めた頃の事だったと思う。
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