*うた こい

□『笑顔で帰る権利を頂戴。』
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「お帰り、今日は公園行ってたの?」

「っ、ふふっ」

臨也の問い掛けに、津軽と公園で話してきたサイケは頷いて頬を桜色に染めると、愛嬌たっぷりの笑みを溢した。


津軽がサイケに会いに来た日から、2人はよく遊ぶようになった。
お互いが家に訪ね合ったり、公園でひたすら喋っていたり。
そんな2人を、よく飽きないな、と見ながら。
…少し、羨ましくもあった。


津軽がサイケに初めて会いに来た日。サイケは、今まで味わったことのない感情を津軽に抱いた。
恋愛感情。データに組み込まれた感情のうち、それに当てはまるものだとサイケは知る。
サイケは喋れない。笑うことは出来ても、声と感情が言葉に繋がらない。
だから、上手く伝えられない。
嬉しい。悲しい。怖い。寂しい。一定の感情は全て津軽は理解してくれる。でも、好きという感情だけは上手く伝わらない。
津軽には、同じように恋愛感情があるのだろうか。あっても、自分には向けられていないのではないか。そう、不安になる。
でも、伝えてみたい。恥ずかしくはあるけれど。緊張してしまうけれど。
臨也に対する好きとは違う好きなのだ、と。恋という感情なのだ、と。
優しい津軽に。大好きな津軽に。



くいくいと背中から服を引かれ、臨也は料理の手を止めて振り返った。
臨也の服を引っ張っていたサイケは、臨也をじっと見る。どうしたの、と問い掛ければ、サイケは口をぱくぱくと開いた。
その様子に、臨也は直ぐに察する。

「何?喋れるようになりたいの?」

こくん。ピンクと白のヘッドホンが縦に揺れた。
…臨也としても、津軽と会わせるようになってからのサイケを見ていて、いつか言われるのでは無いだろうかと思っていた。
サイケは、感情と単語が二分化してデータとして組み込まれている。それを上手く組み合わせて言葉としてインプットすれば、接続詞やらはどうとして難しいことではない。既に、声に出すことを出来るようにすれば言葉になる単語もあるはずだろう。
――ずくん、と胸が疼いた。

「…何言ってるの、わざとサイケは喋れないように作ったのに、なんで喋れるようにしなきゃならないの?」

臨也は、突き放すようにそう告げた。
臨也に拒絶された。サイケの赤い瞳がいっぱいに見開かれる。
なんで、と再び服を引っ張られ、臨也はサイケを睨んだ。
ぐにゃ、とサイケの口許が歪む。ひっく、と喉から嗚咽が溢れたけれど、ロボットの身体に水分は無く涙は流れないまま。
うう、と胸が痛くなるような声が唇から零れたかと思えば、サイケは寝室へ走り去った。

サイケに言葉を教えるのが面倒臭いわけでは無い。サイケが話せるようになるのが嫌なわけじゃ無い。
…サイケだけが、静雄と見た目の酷似する津軽と目に見える速度で仲良くなっていくのが、置いていかれるようで怖かった。

臨也は、静雄のことが好きだから。

きっと、サイケが津軽に抱く感情と同じ。
愛しい、という、沢山の人に向けることは出来ない、優しく苦しい感情だ。
…でも。

「中身は違っても、顔が同じ相手を好きになるって、似た者同士なのかな…」

その見慣れた顔を思い出しながら、ぼんやりと呟く。
じゅう、と焦げ臭い匂いが不意に鼻を擽って、慌てて火を消した。



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