*Eternal Love

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静雄は、一人きりの家路を歩いていた。

…あの日以来、臨也と再び距離を置くようになった。もう1週間も経つ。
いつ襲ってしまいそうになるか怖い。間違えてでも、また臨也の血を吸いそうになってしまうのでは、と思うと不安で仕方がない。
…昔聞いた、恋人を殺してしまった話を思うと、自分と勝手に重なっていくのだ。
青白い肌で固く眼を瞑って動かなくなる臨也。その肩に牙を食い込ませる自分。

自分で、絶たなければ。
絶たなければ、いけないのに――



「シズちゃん」


話したい。そう願った故の、幻聴かと思った。
声のした方へ振り返れば、そこには確かに、関係を、想いを絶たなければ、と思った臨也の姿があった。
立ち止まれば、決意もそのまま足を止めてしまいそうで、静雄は踵を返し臨也から離れていこうと足を踏み出す。
…と、臨也が口を開いた。


「俺の血、飲んでよ」


凛とした声が、静雄の鼓膜を揺らした。
思わず再び振り返れば、酷く息苦しそうな、それでいて悲しげな顔が、静雄を真っ直ぐに見つめていた。
もしもこの時、臨也が此方を睨むような視線を向けていれば、またふざけたことを、と吐き捨てて歩き去ることも出来ていたかもしれない。
なのに、そんなに泣きそうな顔をされれば、何も言えないじゃないか。

黙り込み臨也をじっと見たままの静雄。
臨也は破裂せんばかりの胸を落ち着かせることも出来ないままどうにか見つめ返し、訥々と口を開いた。

「帝人さんに聞いた。――血を飲まないと、どうなるか…。
俺、シズちゃんが狂ってるとこなんか、見たくない、し」

ドキリ。大きく跳ねた胸は、刃物で刺されたようにズキリと痛みを催す。
このまま聞いていれば、襲いかかってしまいそうな気がして、怖くて、怖くて。
まるで引き付けられたように動かない視線を無理矢理剥がそうとした時だった。

臨也の片手がポケットを探る。
小型の何かを取り出したかと思えば、
シャキン、と鋭い音と共に、銀色の光が臨也の手元に現れた。
ナイフだ。掌ほどの刀身が、赤らみだしている空を映して煌めいていた。
その凶器に動揺を隠せない静雄。
臨也はナイフを手首に添えた。
決意と共に小さく息を飲み、大きく瞬きをし、それを横に引いた。
痛みに臨也の顔が歪み――真っ直ぐに出来た線に赤が滲み、手首を伝う。
ぽたり、アスファルトに滴が落ちた。

バクン。
バクン、バクン、バクン、バクン、
胸が、今までに無いほどの反応を示す。
赤。赤。鉄臭い鼻につく臭いと、赤。
駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ――

臨也はナイフを手から滑り落とし、傷口から溢れる赤を、指先でなぞった。
白い肌に浮く真っ赤な血は、そのコントラストを際立てるように静雄の意識を蝕み、苛む。
臨也は、顔を上げると笑った。
酷く切なそうに、苦しそうに、笑った。
その瞳には、既に溢れんばかりの滴が溜まっていて。

「直接じゃなかったら、大丈夫とか…ない?」

ぼろり。台詞と共に、赤い瞳を縁取る瞼から、溢れ落ちた。


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