Novel2

□道化師たちのシエスタ
5ページ/5ページ


料理も食べ終わり、ケーキも食べて、再び和やかな会話をして。
ずっと、今日という日が続けばいいのに、と何となく思って。
けれどきっと、荊の中の薔薇が美しいのと同じように、甘さなんて存在しない日常の中の蜜だからこそこんなにも綺麗なものに思えるのだ。

「シズちゃん?」

不意に静雄を呼んだ凛とした声は耳に残る。声に反応すれば、またぼんやりしてたね、と臨也は苦笑を漏らした。
いや、そういうんじゃねぇよ。そう言って臨也の頭を撫でれば、本当に?と悪戯めいた声で返された言葉。
静雄を下から覗き込む臨也は、やはり綺麗で可愛くて。
…先刻、我慢した分。

静雄は、臨也の唇を奪った。
驚いたように跳ねた臨也の唇を舌で割ると、歯列をするりと舐める。すると臨也から舌を絡めてきた。ざらついた感触は、柔らかく熱い。それを吸い出して甘噛みすれば、んん、と小さな声が喉から漏れた。

もっと聞きたい。
きっとこれは誕生日の特権。
俺が与えられるものがキスなら、臨也は素直に受け入れてくれればいい。

「ふぅ…んん、ぁ…はぅ、あ…」

舌を絡めて、口腔を蹂躙して、唇から溶かすように、染めていくように、貪欲なほどに唇を求める。触れたい。そのたったひとつのために。
いくら重ねていただろう。ようやく唇を離した頃には、臨也は息を荒くして顔を赤くしていた。

「い、きなり、キスしないでよ…っ」

「そういう手前も素直に舌絡めてきてたじゃねぇか」

「…条件反射だよ」

唸るように言った臨也が愛おしくて、再び唇を奪った。




翌日。
池袋には怒声が響く。

「臨也あああ!!」

「五月蝿いな、正に怪物って感じだね!」

鋭い風斬り音を響かせるナイフに、振り回される標識。
いつもの池袋の日常。何も何も変わない日常。
明日も明後日も、一年後も、きっと変わらない。
けれど、少し。ほんの少しだけ、きらきらして見える。

…次は、5月4日。
さて、どうしようか。なにをあげようか。なにをあげられるだろうか。
昨日焼き付けた笑顔は、声は、今はもう遠い。

「何ぼんやりしてるの」

静雄のシャツを裂いたナイフに、一気に思考が吹っ飛ぶ。理性がシャットダウンされれば、残るのは怒りに任せる本能だけ。

「殺す!!!」

振り上げた標識を、臨也は笑う。
腹立たしさの底にある僅かな愛しさは少しだけ疼いたけれど、お構いなしに標識を投げた。
…だって、嘘を愛せる一日も、悪くないだろう?





END
Happy Birthday!
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ