Novel2
□夕暮れ
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「帰るか、そろそろ」
臨也の声は、静雄の伸びをしながらの声に遮られた。
決心と共に唇を出ようとした声を遮られると、その言葉は一瞬にして喉を詰まってしまう。
歩き出した静雄についていけないまま立ち止まる臨也を不思議に思い振り返った彼の顔は、曇りも何もなくて。
「どうした、まだ居るのか?」
言うなら今だよ。打ち明けるなら、このまま会えなくなるなら、今。
シズちゃんが好きなんだよ、って――
「――ううん、もう帰るよ」
臨也は笑って見せて、静雄の背に追い付いた。
見上げた先にある闇に浮いた彼の顔は、優しげな感情が満ちていて。
ああ、彼は人間なのだ。きっと、自分みたいなろくでもない考えなんか持っていない人間とは違う。
だからせめて、喧嘩相手の枠だけは、俺以外に譲らないで。
静雄と彼女の関係が、崩れてしまう日が来るまでは。
(嫌われるのが怖いくせに気付いてと願う臆病な自分)
(どうせ僕らの手が繋がる日は来ないのに)
(どうして人間なんかになっちゃうのかな)
(おいていかないで)
(愛しい人)
END