Novel2
□生きたい理由であり、死にたい理由の人。
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「仕事はいいのか?」
「内容は波江さんに話してあるし、俺しか出来ないことはちゃんと終わらせてきたよ」
にこ、と笑って返せば、静雄はどこか安堵したような表情を浮かべて、そうか、と呟いた。
静雄が激昂することは随分減った。寧ろ皆無に等しい。
この治療法の無い病気のためか、俺が恋人に落ち着いたからか、俺が彼を挑発しなくなったからか。
――怖いのだ。素直に、孤独だとか、計り知れない闇だとか…
「手前と喧嘩がしてぇ」
――唐突に、静雄が呟いた。
…ああ、見透かされているのだろうか。俺が彼に少なからず気を遣っているというとこと。…でも。
「いつも喧嘩してたから、何ていうか…生きてる気がしねぇんだよ」
「馬鹿言わないでよ」
苦笑で飾って、静雄を見やる。
言うな。そんな馬鹿なこと、言うなよ。言うな――
「臨也と喧嘩して死ぬなら、後悔しねぇ」
「いい加減にしてよ!!」
感情のままに叫んだ声は、白い病室にキンと響いた。驚いたような静雄の顔が見えたけれど、謝ることすら出来なくて。
ただ、酷く満ち足りた何かと、どうにもしようのない虚無が胸を圧迫してくる。
「俺はシズちゃんのために生きてるんじゃない!俺は俺だけのために生きてるんだよ、分かるだろ!?
あれだけ沢山怒らせて、沢山喧嘩して、それなのに…っ!」
彼の死を後押ししていたのは、俺のはずなのに。
どうして俺にこれ以上の罪悪を背負わそうとする?
「シズちゃんは分かってないよ…!」
居たたまれなくなり、臨也は病室を走り出た。
名前を呼ぶ声が聞こえたけれどただ胸が痛くて、止まることも出来なかった。
病室からいくらか離れた所で、臨也は立ち止まる。
――これ以上、彼を死に追い込んでいるのは自分だと思いたくない。愛しい人を死に急がせたくない。
分かってよ。日常よりも、シズちゃんの方がずっとずっと大切なんだよ。
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