Novel1

□手が冷たい人は、
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「サイモン、許さねぇ…!」

突然静雄の唇から転がった言葉に、臨也は眼を瞬かせた。
呟くや否や踵を返した静雄に嫌な予感がして、臨也はその腕を掴んで止める。

「何しにいくつもり?」

「サイモンに言いに行くんだよ、臨也に手上げるなって」

「はぁ!?」

臨也は、頭が痛くなりそうな状況に、溜め息を吐く。
掴んだ腕はそのままに、口を開いた。

「その気持ちは頂いておくよ。
でも、シズちゃんが言ったところで悪いのは俺なんだから、恥をかくだけだよ?」

臨也の言葉に眉をひそめたものの、静雄は素直に諦めたのか、再び臨也へ向き直った。
胸を撫で下ろした臨也は、腕を離して息を吐く。

「いつもは直ぐに殴ってくるくせに、怪我一つでやけに大人しくなるんだから」

調子が狂うなぁ、なんて苦笑して見せれば、
静雄はその顔を真っ赤に染めて、「違う!!」と全力で否定する。

「折角心配してやってるのに、何様のつもりだ、手前!」

「はいはい、ありがとう、シズちゃん」

笑ってそう言えば、静雄は納得いかなさそうにしながらも口をつぐむ。

…そんな静雄へ、臨也は口を開いた。

「さっきみたいにしてよ」

「…あ?」

僅かに俯いた臨也は、呟くような声で言う。


「瞼、撫でて」


今の顔は、きっと自分でも恥ずかしいくらいに真っ赤なんだろう。

静雄の指が、瞼に触れた。
いつもの怪力から予想できない優しさで撫でられ、
煩いくらいに高鳴る鼓動が、聞こえないふりをする。


その冷たい指が気持ち良いなんて、言わないけれど。







END

「手が冷たい人は、心が温かいんだって。
噂だけどね。」
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