Novel1

□手が冷たい人は、
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何も投げられるものが無さそうな場所で立ち止まり、振り返ると、眉を顰めた静雄と眼が合った。

「止まって」

臨也が声を張ると、静雄は素直に歩を緩めて止まる。
…ふと、いつも発している痛いほどの殺気が感じられないことに気がついた。

「シズちゃん、何の用かな?いつもと様子が違うようだけど」

静雄は、眉をしかめたまま、口を開いた。

「手前…目、どうした」

問われた言葉は予想外で、え、と声を漏らす。
静雄は臨也へ歩み寄ってくると、目の前で止まった。
自分より幾分大きい静雄を見上げると、妙に心配そうな顔をしていて。

「…どうしたの?」

問い掛ければ、突然静雄の手が伸びた。
驚いたものの、その手に乱暴さは感じられず、眉をしかめたまま静雄の手の動きを眼で追う。

静雄の手は、臨也の眼帯に触れた。

「どうしたんだよ、これ」

低く言った声に、臨也は眼を瞬かせた。
問われた通り眼帯を外すと、静雄の指先が驚いたように震える。

心配でもされているのか。
この程度で心配されるほど弱くない、という気に食わない気持ちと同時に、
何処か嬉しいような気がしている自分がいた。

柄にもなく顔が赤くなりそうで、臨也は視線を逸らしながら誤魔化すように口を開く。

「大したことじゃないよ、サイモンが気に食わないことして、殴られただけ」

そう言ってから、こんなことを言っては馬鹿にされる、と思い返した。

…しかし、静雄は黙ったまま。
不思議に思いおずおずと見上げ――

突然瞼に触れた指に驚いた。
骨張った指が臨也の紫に腫れた瞼をなぞり、優しく撫でる。
驚きと恥ずかしさで、どうしようもなく視線を逸らす。

「大丈夫なのか?」

「、当たり前だろ、これくらいどうってことないし…」

本当に、何を考えているのやら。
いつもは標識やらダストボックスやら、何でもかんでも投げてくるくせに、こんな痣で心配するなんて。

やっぱり、シズちゃんは分からない。
…それに、
こんなふうにされて、嫌じゃない自分も――


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