Novel1
□手が冷たい人は、
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静雄にコンプレックス。
…そんなの、あるわけが無いじゃないか。
誰が誰に、負けたくない、と?
元から負けるとも思って無いし、認めたくもない。
――なんて、言えれば良かったのだけれど、
あの時下手に反論していれば、あの気圧される空気を放ち続けるサイモンと延々と会話することになっていただろう。
静雄みたいに直ぐにキレるわけではないから、あの強力なパンチだけで済んだ。
…まぁ、こんな考えの時点で。
「俺は卑怯だからなぁ…
ねぇ、波江さん」
振り返れば、名前を呼ばれ、顔を顰めた波江の姿があった。
「今更何言ってるのかしら?そんなの、ずっと前から知ってるわよ」
棘のある声に、酷いなぁ、と笑う。
しかし、その言葉は無視したようだった波江は、嘲笑を浮かべた。
「それよりも、その無様な顔で外出するつもり?
首の真似をしきれなかったあの女並みにかっこ悪いわよ」
毒のある言葉に、さして傷つきもしない臨也は、
「こんなときだけ感情豊かなんだから」と、笑った。
…だがしかし、このまま外出するのも好ましくはない。
痣なんかで目立つなんて、彼女の言う張間美香とは別として、あまりにもかっこ悪いだろう。
「眼帯入ってたっけ…」
備えてある救急箱を漁れば、奥の方に入っていた。
自分の周到さに笑みを溢しながら、いつもの人間観察へ出向いた。
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