紅狼

□X Day は波瀾万丈!!
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その日、陛下は午前中に視察が入っていた為、朝は顔を合わせることがなかった。



私は午前中に掃除バイトを終わらせ、侍女に言って必要な材料を買ってきて貰い、厨房を借りた。

最近はよく借りるので、宮廷料理長は事情を話すと快く貸してくれて…


「よし、出来た!!」


私は出来上がったお菓子を前に満足していた。


(少し形はいびつになっちゃったけど、まぁ、初めてにしては中々…。)

「お妃様は本当に料理がお上手ですね。」

「料理長!?」


少し難しかったけど、なんとか満足した私の背後から料理長が声をかけてきた。


(はっ!!演技演技。おしとやか!!)

「ぉ、脅かさないでください。」

「ははっ。すいません、お妃様。」


料理長は手にカゴを持って近づいてきた。


「お妃様が居れば、陛下は食べることになんら不自由ないですね。」

「そ、そんなことないですわ。私なんかが作るより、料理長が作ったものの方が何倍も美味しいですし。」


私は慌てて首を振る。

料理長はそれを見てもニコニコと笑っているだけなのだけれど。

料理長は50代の割腹のよいおじさんで、先々代の頃からここに勤めているらしい。


「私なんかが作っても、料理長の足元にも及ばないですわ。」

「いいえ。陛下にとって、お妃様のお料理の方が何倍も美味しいはずです。」


私が一生懸命首を横に振るけど、料理長はや
っぱりニコニコ笑いながらそれを否定する。


「お妃様、料理は愛情なんです。」

「え?」

「相手に食べて欲しいという思いが篭っている物程美味しいものなんです。特に愛する者が作ってくれたものなら尚更美味しい。」

「ぇ、ぁっ…。」


そう料理長に言われ、陛下が居ないのにとても恥ずかしい。

頬が朱に染まっていくのがわかる。

あぁ、その言葉はあの演技を見たからだと解ってるのに。

本当は私は陛下の愛する者ではないのに。

本当にそうだったらいいな、なんて思っちゃう。


「きっと陛下も喜んでくださいます。」

「そ、そうですか?そうだと私も嬉しいです。」


きっと私の頬は林檎の様に真っ赤だったと思う。

ちらりと料理長を伺うと、いつもと同じ様にニコニコと笑顔を浮かべていた。


「こちらは私からです。」


料理長はそう言うと、手に持っていたカゴを私に渡した。


「これは?」

「李順様に言われてご用意させていただきました。お妃様に届けるようにと。」

「李順殿が??」


カゴの中には一つ一つ色紙に包まれたチョコレートが入っていた。


「チョコレート?」

「はい。」

「綺麗ですね、宝石みたい。」


私はカゴを受け取る。


「ありがとうございます。お妃様がお作りになったものには劣るでしょうが、チョコレートはこの時期が1番美味しいですからね。明日にでも、陛下と共にお楽しみください。」

「まぁ、とても嬉しいです。ありがとうございます。」


私は自分が作ったお菓子とそのカゴを持って、部屋へと帰った。

そろそろ陛下が来る時間だったから。








まさか、昨日、張老師が半泣きで李順さんと陛下の所に駆け込み、バレンタインの存在を知らせていたなんて知らなかった。







夕鈴殿の部屋に行くと、厨房に居ると侍女が言った。


(まったく何をやってるんだか。)


暫く待つと、両手に何やら抱えて帰ってきた。


「貴女は何をやっていたのです?」

「李順さん??」


私は呆れ顔で夕鈴殿を迎えた。

夕鈴殿が抱えているものを見ると、それは料理長に頼んだチョコレートだった。


「それを貰ったのですね?」

「ぇ??」

「そのカゴです。陛下へのバレンタインのプレゼントとしてこちらで用意させていただきました。」

「は?」

「大体貴女という人は、こういう話しはわかった時点で素早く報告すのが義務でしょう!!いいですか、報告連絡相談は基本ですよ!!」

「話しが見えないんですけど…。」


夕鈴殿は手に持っていたカゴと箱を机の上に置き、私に向き直った。


「張老師から聞きました。氾大臣の娘から今日はバレンタインだと教えていただいたと。」

「え…。」


私がそういうと、夕鈴殿は何故か呆然と返事をした。不思議に思ったが、説教が先です。


「陛下と打ち合わせ中に張老師が泣きながら、貴女が何も用意していないと訴えてきましてね。大体、こうゆうのは必要経費ですから、言っていただいたらだしますよ。」


私はきっちりと侍女達の前でそれを渡す様に言うと、陛下を呼びに政務室へと急いだ。

その後ろで、夕鈴殿がへたりこんでいるなんて気づきもせずに。








「陛下。」

「…李順か。」

「用意が整ったので、ささっと終わらせて戻ってきてください。今日はまだまだ仕事が残ってますので。」


私が陛下にそういうと陛下は眉間のシワを増やし、深い溜息をついた。


「何が嬉しくて、お前からのバレンタインの贈り物を受け取りにいかなくてはならんのだ。」

「仕方ないでしょう。」

「私は妃からの贈り物が欲しかった。」


陛下は今日一日、ずっと機嫌が悪い。

まぁ、自分が気に入っている(私には理解しがたいですがね。)者からの贈り物ならまだしも、他人に用意されたモノをまるでその人物から貰ったように振る舞わなければならないのですから。

私なら絶対嫌ですね。


「そういうのは、正妃を貰った時にしてください。ほら、早く行ってきてください。まだこんなに残ってるんですから。」


私がそういうと、陛下はもう一度深い溜息を吐き、夕鈴殿の部屋へと向かった。
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