紅狼

□X Day の前日に
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「バレンタインデー??」


私は聞いたことない単語に首を傾げる。


「はい!」


目の前には頬を薄紅色に染めた紅珠が小さな包みを私に差し出していた。


「西欧の行事なんですけど、お妃様はご存知ありませんか?」

「ええ。」


私がこくりと頷くと、紅珠はぱぁぁと花を飛ばしながら、嬉々としてバレンタインデーの説明をしてくれた。


「本当はバレンタインデーは明日なんです。
でも、明日は陛下とお過ごしになられると思って今日渡しに来たんです。」


紅珠はそういいながら、手に持った小さな可愛らしい包みを私に差し出した。


「バレンタインデーは、好きな人に贈り物をする日なんです。
東の国ではチョコレートを贈るのがなりわしなんですけど、それは殿方に愛を伝える為に贈るのだそうです。」


紅珠はふわっと笑って、夢を見るような目で私を見ていた。


「素敵な日だと思いませんか?」

「そうね。」

「それで私、是非お妃様に贈り物がしたくて。」

「まぁ、ありがとう。紅珠。とっても嬉しいです、開けてもいいですか?」


私は精一杯笑顔でそう言って、貰った包みを机の上に置く。


「はい、是非!!」


包みを解くと、そこにはハートが描かれたとても可愛い硝子の小物入れだった。


「まぁ、とっても可愛い。」

「でしょう!
私一目見てとても気に入ってしまって、お父様にわがまま言ってお妃様とお揃いで買って貰ったんです。」


紅珠はそう言うと彼女独特なふわふわとした笑みを浮かべた。







「ほぅ、してそれが氾の小娘に貰ったっちゅう小物入れか?」


紅珠が帰った後、なぜか張老師がやってきた。


「ほほう、これはまたいいものを貰ったの。」

「高いんですか?」

「いや、そこまで高くはないじゃろ。
だが珍しく、いいものには違いない。
ところで掃除娘。」

「はい?」

「陛下に贈る贈り物は用意したんじゃろうな??」


そう言われた途端、私は頭に大きなクエスチョンマークを出した。


「え?」

「えっじゃなかろうて!!まさかお主、何も用意しとらんのか?!」

「用意も何も、私はバレンタインデー自体さっき知りましたし。」

「っかー!!だったらもっと焦らんかい!!」


両手足をバタバタとし始めた老師を見ながら私は溜息をついた。


「だって私には陛下にあげれるようなもの、買えないし。」

「ぅっ、そりゃそうじゃが…。」


私が呆れなからそういうと、老師は苦虫を潰したような顔で言葉に詰まった。


「とりあえず、今から考えます。」

「ぉっ、なんじゃなんじゃ!何だかんだ言いつつ、陛下に贈り物あげるつもりなんじゃな?!」

「紅珠と話している時、侍女も居たんですよ。
どっちかっていうと、侍女の方が焦ってて…」


私が溜息をつきながらそういうと、老師は口をあんぐりと開けて固まっていた。


「…。」



っ、だって仕方ないじゃない!!

知らなかったものは知らなかったんだもの!!

それに私には陛下に何か買ってあげれるようなお金もないし。

知ってたら私だって…。




私、だって…。





だって…、何だっけ。


好きな人に贈り物をする日。


そうよ。

例え知ってたとしても、焦る必要なんて全くないわ。

だって、私が陛下を好き…




…って、ないない!!


絶対ない!!



そ、そうよ!!

これはお妃バイトの一環だわ!!

だって、ラブラブ設定の夫婦がこのイベントに参加しないなんてどう考えたって変だし!!

だから、私から陛下に何かあげたとしても全っ然当たり前のことよ!!

陛下に事情を話して………。






……話すのは後でもいいかしら。

渡すのが当たり前なら、少しくらい…。

少しくらいなんだろう??

ん〜??

でもきっとこういうのって、サプライズの方が嬉しいものよね。




私はぼぅっとそんな事を考えていた。

だから気づかなかったのだ。

張老師が半泣きで若造〜!!とか叫びながら、李順さんのところに走って言ったことに。



気づいていたら、あんなや事にはならなかったのかな…。
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