紅狼

□新月の宵
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求めたものは平凡で堅実な暮らし。

人生においてそれが最優先だったのだ。

だって仕方がない。

それ以外を望む余裕なんてない状況下で育ってきたのだから。

大体そう望むことの何が悪いんだろう。

嫁に行き遅れる??

はっ。

さっさと適当に嫁いだ相手がギャンブル好きだったと後からわかる方が嫌なのよ、私は!!

だってそうでしょう?

稼いでも、稼いでも、借金の返済に消えていくのよ?!

底の抜けたツボに水を継ぎ足して、足した瞬間にザバッと流れでちゃうようなものよ!

大体ギャンブル好きってのは全く懲りない人種なのよ!!

よくもまぁ、あれだけ次から次へとっ。

だから私が求めるのは、平凡で堅実な暮らし。

それが人生において最優先だったのだ。



そう。





だったのだ。





つい最近までは。






〜新月の宵〜




「今日は新月だから、いつもより暗いね〜。」



狼から子犬に戻った陛下がのほほんとお茶を飲みながら窓の外を見る。

机の反対側に居た私も陛下にならって外を見た。

そこはいつもの月明かりに照らされていない、ただ闇の広がる空間。


「陛下。」


私が口を開けようとした途端、横から割り込む声が聞こえた。


「なんだ、李順。」


扉の方を見ると厳しい顔をした李順さんが立っている。


「ご休憩のところ申し訳ありません。至急お耳に入れたい事が…。」


李順さんは礼をしながらちらりと私を見る。

その目は席を外せと無言で訴えてくる。

そんなことをしなくても自分の立場くらい弁えている。


「それじゃぁ、陛下。私はもう部屋に戻りますね。」

「ぁ、夕鈴!」


陛下が私に声をかけるが、私はそれを振り切って自分の部屋へ戻った。

侍女を下がらせ、夜着の上に来ていた羽織りを脱ぎ、早々と寝台へと潜り込んだ。

そこにあるのは闇。

新月である今日は、空からの光は届かない。
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