紅狼
□7月12日 ノコギリソウ〜これはある意味戦いだ〜
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夏も深まってきた今日この頃。
後宮の庭は今日も綺麗に整備され、色鮮やかな花が咲き誇る。
そんな中、この国の唯一の妃、汀 夕鈴は後宮の奥で涼をとっていた。
ノコギリソウ〜これはある意味戦いだ〜
「お妃様、大丈夫ですか?」
侍女が心配そうに夕鈴の顔を覗き込む。
夕鈴は長椅子に伏せていた体を持ち上げ、座る。
「あぁ、お妃様。無理をなさらずっ。」
「もう大分平気よ。」
夕鈴は少し青白い顔で微笑む。
「油断はなりませんわ、お妃様。」
侍女は水を彼女に渡しながら真剣な顔で彼女を諭す。
「大げさすぎよ、ただの日射病なんだし。」
夕鈴は水の入った茶碗を受け取り、喉を潤わした。
夕鈴は先ほどまで庭に出て、花を摘んでいた。
ここの後宮の庭はいつ見ても綺麗だ。
四季折々の花が咲き誇り、常に整備されている。
どれだけ見ても見足りず、夕鈴は暇さえあれば庭にでる。
それは日々の習慣である陛下とのお茶の為の花を摘むという目的もあるのだが、いかんせん今日は日差しが強すぎた。
少しだけのつもりが存外長い時間外にいたためか、めまいを起こしてしまったのだ。
「お妃様、お花はこちらでよろしかったでしょうか?」
侍女は花瓶に挿した花を持ち、机の上に飾る。
「えぇ、ありがとう。」
夕鈴はにこりと笑い、椅子から立って花瓶の傍による。
それを見て侍女たちは慌てて、彼女を止める。
「お、お妃様!!まだお立ちになってはっ!!」
「大丈夫よ。大分よくなったもの。」
夕鈴はそういって机に近づくが、数歩手前で目の前が真っ暗になり、よろめく。
「夕鈴様!!」
そのまま机にぶつかるかと思い、固く眼を閉じた。