紅狼
□君を捕まえる為に
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「ん?」
ふっと見上げた先、庭には私−珀 黎翔の唯一の妃がいた。
王宮から後宮の彼女の部屋へと急いでいた足は、庭に居る妃−汀 夕鈴の元へと方向を変える。
「夕鈴。」
「陛下!!」
声をかけると夕鈴は弾かれたように顔をこちらに向けた。
「何をしている??
こんな所に一人で。」
「ぁ、えっと、」
夕鈴は困った様に眉を下げ、言葉を探している。
所在なさ気に揺れる瞳が私の捕縛心を煽る。
(あぁ、捕まえてしまいたい。)
そんな事を無意識に考えていると、夕鈴はすっと私を見据えた。
「ん?」
いつものように甘く微笑んで夕鈴の視線に応える。
夕鈴が私の笑みの真意に応えてくれたことはないが、いつか応えてくれることを願って。
「ぁの、陛下をお待ちしていました。
もうそろそろお戻りになる時間でしたので。」
夕鈴は頬を薄紅色に染め、視線を反らしながらそう言葉を紡いだ。
それは私の心を奪う。
今まで何物にも誰にも奪われた事のないそれ。
初めて知った。
自分にも人を好きになることが、愛することができるということを。