□甘露
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「甘露酒…ですか?」


それは黎翔が持ってきた一つの瓶だった。




甘露




「うん。なんか東の方の地方からの献上品なんだけどね〜。」


黎翔はトンッと机の上にその瓶を置いた。

見事な細工が施された硝子の瓶だった。

中には透明な液体が入っている。


「甘いんですか??」


夕鈴は首を傾げながらも、酒器を取り出す。


「うん、甘いよ。」

「へ〜。」


夕鈴は珍しそうにしながらも、酒器に水を注ぐ。


「飲み口も凄く軽いものなんだ。だから夕鈴と一緒に飲もうと思って。」


たまにはいいよね〜とかいいながら、黎翔は夕鈴の手で注がれる甘露酒を見ていた。


「ぇ、私も飲むんですか?」

「うん。」


それはもう無邪気な笑顔で頷いた訳だが…


「む、無理です!!」

「ぇ?」


まさか断られるとは思っていなかった黎翔は首を傾げる。


「なんで?」

「だ、だって、私お酒飲んだことありませんし。大体私は未成年…じゃ、なかったです…ね。」


そういえば自分は17歳だったことを思い出す。

ちなみにこの国の成人年齢は16である。


「でしょう?」


黎翔はにこにこと笑って夕鈴を見る。

まさか飲んだことないとは思ってなかったが、酔った夕鈴がどういう風になるのかが見たくて李順から奪ってきたのだ。

まぁ、その分仕事はさせられたけど。

誰も見たことない夕鈴が見れるというのは、黎翔にとって嬉しい誤算だった。


「大丈夫だよ。これは軽いし、飲み易いから。」

「で、でも…」

「一人で飲むのも寂しいしなぁ〜。」

「ぅ…っ。わ、わかりました。で、でも少しだけですよ!!」


キッと顔を引き締め、夕鈴は自分の分の酒器を出してきた。

とくとくと注ぐと、波紋をたてて酒器に甘露酒が満ちる。


「飲んでみて。」


黎翔に薦められるままに、夕鈴は一口口に含む。


コクン


「…おいしいです。」

「でしょう?」


夕鈴がそういうと、黎翔は満足そうに笑い、自分も酒器に手をつけた。

飲んだとたん感じるのはほのかに甘い香りと味。

なのに飲み口はすっきりしている。

流石献上してくるだけの価値はある。

お茶の代わりにお酒を飲みながらも、黎翔と夕鈴はいつものように時間を過ごす。

夕鈴が今日した掃除のこと、老師から聞いた話などを聞きながら黎翔は甘露酒を飲み進める。

夕鈴も甘露酒が気に入ったのか、黎翔よりは遅いペースではあるが初めてのお酒を楽しんでいた。
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