□今日この日
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後宮掃除も一段落してきた。

といっても、鬼姑上司こと李順さんに言い渡された区間だけの事だが。

それに比例して、暇な時間が多くなってきた。




という訳でもない。

最近の事だが、刺繍をするようになった。

元々針仕事は得意だったので、侍女に誘われてやってみることにしたのだ。


「お上手ですね、お妃様。」


侍女がにっこりと笑って私の手元を見る。

そこにはまぁまずまずの出来の自分の刺繍がはいったハンカチ。

しかし彼女の手元には完璧といえる美しい刺繍の入ったハンカチがある。


「そうかしら。私は貴方の刺繍の方が上手だと思うわ。」

「まぁ、そんなことないですわ。」


彼女はほんのりと頬を染めながら照れている。


「貴方はそれをどなたかに贈るのでしょう??きっと相手の方も上手だと言ってくれるわ。」


私はにっこりと笑ってそういうと、侍女は嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます、お妃様。」

「完成したのですか、お妃様。」


その時、他の侍女達がお茶の用意を持ってきた。

それは陛下が来る時間を知らせるもの。


「もうそんな時間ですか??」

「はい。後半刻もせぬうちに参られますわ。」

「それでは、お妃様。我らは下がらせていただきます。」


お茶の用意を持ってきた侍女達は礼をして下がる。


「では、お妃様。私も下がります。」


ハンカチをたたみ、刺繍の道具を終い、彼女は席から立つ。


「お妃様の刺繍、とてもお上手ですわ。きっと陛下も喜ばれます。ですから自信を持ってください。」


彼女は最後にそういうとにこりと笑って下がっていった。




そう何を隠そうこの刺繍をしたハンカチは陛下に贈る為のモノだった。

この国には今日この日、心を寄せる方や普段お世話になっている人などに手作りのものを渡すという風習がある。

父や弟には毎年服を仕立てていた。

流石にそれは無理だったので、今年はハンカチに刺繍を施したものを送ったのだが…。

如何せん刺繍なんて初めてするものだから、父と弟に贈ったハンカチはそれはもうボロボロだったと自負している。

最後の一枚は陛下の為に一針一針神経を尖らせた成果か、まだマシな出来上がりになった。

ただマシになっただけで、国王陛下に贈るモノとしてはとても渡せるようなモノではなく、私はそっと棚の中にハンカチをしまった。
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