目が覚めると、襖の向こうからシトシトと雨の音。
あぁ、そろそろ梅雨入りか。
雨の日は、じめじめしててどこか気怠い。
まだ少し眠たい目を擦り、大きく手足を伸ばした。
「慎ちゃん、もう起きてるかな?」
着物に着替えていると、襖越しに姉さんの明るい声が掛った。
「起きてるっスよ。」
襖を開け、俺はにっこり微笑む。
「珍しいっスね、姉さんがこんな早くに起きてるなんて。」
今はまだ明け六ツを過ぎた頃。
辺りが薄暗いのは、雨のせいだけでは無いはずだ。
「うん、何だか今日は早くに目が覚めちゃった。」
そう言って、姉さんはにっこりと笑顔を返してくれる。
「で、俺に何か用っスか?」
何も無いのに、こんな朝早くから俺を訪ねて来たりはしないだろうと思い問掛けた。
「あのね、さっき庭に綺麗な紫陽花が咲いてるの見付けたの!慎ちゃんと一緒に見ようと思って!」
姉さんはそう言うと、俺の手を取り軽やかに歩き出した。
「姉さんは紫陽花が好きなんスか?」
手を引かれながらその後ろ姿に声を掛けた。
「うん!大好き!雨の中に咲いてる姿がとっても綺麗で、ぱっとあったかい光が心に差し込んでくるみたいじゃない?」
そう言って満面の笑みで振り返る姉さんの笑顔は、心の中まで染み込んでくる太陽のよう。
いつのまにか、あんなに気怠かった心がふわりと軽やかになっていた。
姉さんがいてくれるなら、じめじめした梅雨の日々も晴れやかなものに変わっていくのかもしれない。
中岡