猟奇少年と純愛少女

□二人
1ページ/4ページ

理科の授業で鮒の解剖を行うことになった。男女二人ずつ計四人のグループをつくり、一つのグループにつき鮒一匹で行われる。グループで協力し鮒を解剖した後、配られていたプリントへ臓器の位置を書き写す。
要は、自分たちで鮒の腹をかっさばいて内臓の位置を把握する、というものだった。

黒板の前でハゲが解剖について長々と説明した後、学生番号の順に倣ってグループを振り分け、俺を含めた生徒達はだらだらと各々決められた席についた。机の上に置かれた道具と鮒を、生徒達は物珍しそうに眺める。それらは俺達が部屋に入った時には既に用意されていた。

「グループで協力して取り組んで、正確に切ること。いいかー?プリントに書き込むのも忘れるなよー。
あっ、もうこんな時間か。いかんいかん、しゃべりすぎた。
では、ケガのないように!」

ハゲのその言葉をきっかけに、部屋にざわめきが広がった。数人の生徒が恐る恐る鮒や道具に手を伸ばす。俺のグループも「誰がやろうか」という空気に包まれた。


普段から同級生と必要最低限のコミュニケーションしかとっていなかったし、本音を言うと必要最低限すらとりたくなかった。だから「協力」が必要なこういう物事は、勘弁してほしいわけである。
プリントに書き写すというのも単純にやる気が起きないのでやらないことにする。未提出ということで成績は下がるだろうが、俺にとって成績なんてものは心底どうでもいいものだった。



……――だが、解剖だけは別だ。
解剖は俺にやらせてほしい。
出来るだけ、全ての事を。
全ての解剖を俺がやりたかった。


不意に、隣りに座っている男子生徒が「俺パス。めんど」とふん反り返った。それに続き向いに座っている女子二人も顔を見合わせ「私も無理かな……怖いし」と苦笑いを浮かべる。

俺はそれを見て、若干そいつらに苛立ちに似た感情を覚えた。


「めんど」って……。
こんくらいの事も面倒くさく感じるのか。そうやって髪の毛や携帯を弄くるのは面倒じゃないのに魚一匹解剖するのは面倒だなんて。

この女二人も、……「無理」?は?
中学二年生にもなって魚もさばけないのだろうか。魚の一匹くらい、本当はどうって事無いんだろ。怖がってる自分に酔ってんのか。


……まぁいいや。
俺にとっては好都合だから。
逆に、こいつらが同じグループで良かったとまで言えよう。


「……ふーん。
じゃあ、俺が全部やるね」

俺はそう言うと、ハサミの赤い柄に指を通し、鮒を握った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ