捧げ物か企画物
□祝二万打企画
1ページ/12ページ
「さようならー」
先生の言葉に続き、皆が後を追うように同じ台詞を投げ掛けながら頭を下げる。そして、思い思いの行動を取りながらも教室から出ていく。
……――今日も一日が終わった。
私は先生と生徒の別れの言葉が交わされる瞬間、いつもこう思う。学校にいる間が一日の大半を占めているせいか、学校生活が終わったと実感すると同時に、一日の終わりもぼんやりと意識する。
だけど、今日は違う。まだ一日は終わっていない。むしろ私の一日はこれから始まるのだと言っても過言では無いくらいに、この後の予定に今日一日の全てをかけていた。
鞄を机の上に置きファスナーを開け、中を漁る。指先に"カサリ"と目当てのビニールの質感が伝わり、それを引っ張りだした。
赤いリボンで縛られた、白とピンクのストライプ模様が斜めに入った小さな袋。その中から微かに甘い匂いがする。袋の上から優しく中の物に触れ、型崩れしていない事を確認し、ほっと息をついた。
――中にある物。
それは、昨日私が焼いたシフォンケーキだった。お菓子作りは得意なわけでは無いけれど、作る事が楽しいので時たま一人で材料を買ってきては資料と睨めっこをしながら作っている。
昨日は初めてシフォンケーキにチャレンジしてみたのだけど、予想以上の完成度に大満足し、自分の才能に惚れそうにもなった。
そこで、不意に一人の顔が思い浮かんだ。
そして「食べさせたい」という感情も生まれ、次に「まずいと思われたらどうしよう」という不安も生まれた。
暫くその欲求と不安の間で頭を抱えていたけど、結局、私は袋にシフォンケーキの一切れを入れたのだった。
「おっ!北村、それなんだ?」
私の手元を見ながら、先生がいきなり話し掛けてきた。私はほとんど我に返る思いではっと顔をあげ、「あっ、あっ、これ、ケーキですっ。シフォンケーキ」と顔を赤くした。
先生がにやりと笑う。
「好きな奴にか?」
「――!!
えっ、いやっ、ちょ、先生何言ってるですか!ホント、もう意味がわからないです、好きな人って、なんでそんな……」
「わかりやすいなぁ」
的を射た発言で耳まで赤くした私に、先生は「頑張ってこいよ」と笑う。私は熱を帯びたまま素直にうなづいた。
そして渡す相手を探すためにきょろきょろと辺りを見渡し、血の気が引いた。
「……――いっ、いない!!」
「ん?あぁ、あいつならさっき教室を出てったよ」
「なんでもっと早く言ってくれないんですか!!
……――っていうか、"あいつ"って……、誰の事なのか、知ってるんですか?」
私の質問に先生は口パクで答え、「北村はわかりやすいから」と得意げにニッと笑った。その行動に私がただただ目を大きくするしかなかったのは、先生の口の動きと私が想いを寄せている人の苗字が完全に一致していたからだろう。
私のその反応は「正解だ」と相手に伝えている様なものだった。
先生はそんな私を見て困ったように笑いながら窓を指差す。
「ほら、もう門を出そうだよ。今なら間に合うから、走れ走れ!」
「――えっ、あっ、はい!!」
急いで袋を鞄に詰め、引ったくる様に鞄を掴む。教室から出る間際に扉から顔を出し「誰にも言わないでくださいね!」と先生に釘を打つと、「わかったからはよ行け!」とあしらわれた。
「絶対にですよ!!」
半ば叫びに近い声で先生に言うと、廊下を走り、階段を駆け降りた。
……――間に合って!!