猟奇少年と純愛少女

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彼は執拗に『人には狂気がある』だとか『異常であることが正常だ』と断言していた。でもそれは、恐らく自分の考えに自信があるからという理由だけじゃない。……ううん、そもそもあれは自信でもなんでもない。


きっと……。

きっと榊原君は、


本当は「そうであってほしい」と、
"願っている"んだ。



『狂気があって当たり前』
『むしろやらない人間がおかしい』
『自分はおかしくない』
『他の人間にもあることなんだ』


『自分だけじゃない』


……そう考え込むことで、生き物を殺してしまった罪悪感や後戻りできない結果から、自分を守っているんじゃないか……。

本心とは違う、自分の言葉。
自分を守るための、無意識な願い。

だから瞳が揺れていた。
心と……良心と同じように、微かに、それでいてはっきりと。



もしかしたら彼が語った愛についてや狂気についても、最も言い聞かせたかったのは私なのではなく"榊原君自身"なのかもしれない。まくし立てる様な話し方も、自分に罪悪感を感じる余地を作らないようにしていたから。すらすらと言葉が出てくるのは、日頃からずっと自分に言い聞かせていたから。そう思うと、いつもと違う饒舌な彼にも納得がいく。






……――そう。




榊原君は心の奥底で
自分の言っている事が間違ってるって、
自分のやっている事が間違ってるって、
本当はわかってるんだ。
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