短 文
□幸せな朝
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幸せな朝
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心地よい暗闇の中で揺蕩う魂が、一息に引き揚げられるような感覚。
閉じている目蓋の向こうが、明るい。
鳥のさえずりが、忙しない。
しまった、寝過ごした。
…と一瞬焦ったが、鼻腔を擽る自分の寝具とは違う甘い香りに、記憶を改める。
"明朝は起こしに来なくてよい"と昨晩のうちに人払いをしたのは、己だった。
この人と二人きりで濃密な夜を過ごした後、穏やかな朝を迎える為に。
目を薄く開けば、部屋は柔らかい朝日に暖められている。
このように自然と目覚めるのは、いつ以来だろうか。
清々しい気持ちで深く息を吸い、吐き出す。
腕の中から聞こえる小さな寝息に、耳を澄ませた。
華奢な身体を傷めぬよう加減をして抱き締める。
鼻先を白い素肌に擦り寄せれば、言いようもない幸福が胸に満ちた。
僅かに身じろいだ肩に、彼女も眠りから覚めるようだと予感する。
「おはようございます。名無殿。」
柔らかく声を掛ければ、恥じらいながら見上げる瞳が揺れている。
この儚く可愛らしい人を、何もかもから、護り抜きたい。
「文淑殿…おはようございます。」
掠れた声に、罪の意識を感じると同時に、心に熱が燻った。
皆に'文鴦'と呼ばれる中、彼女だけが正しく己を呼んでくれる。
この人は、自分を大人の男として認めてくれている。
誇らしかった。
堪らなく、嬉しい。
細く白い首筋に、親愛の証を贈る。
軽いくちづけにも小さく身震いする様が、更なる愛慕を沸き起こす。
「常ならば、既に身なりを整えて槍を構え、あなたと対峙している時分ですが…。」
そうですね、と名無殿は困った笑みを浮かべている。
「でも…あなたと二人きりで、ゆったりと微睡みたくて。今朝は朝寝坊してしまいました。」
指先で頬を撫でてくれる感触に、思わず目を細める。
「普段、あんなにも熱心に励んでいらっしゃるのです。一日くらい、こんな日が有っても許されましょう。」
「名無殿にそう言って頂けると、安堵します。」
あなたは"一日くらい"と言うけれど。
今後は毎朝、同じ過ごし方をしてしまう気がする。
怠け者だと呆れられてしまうだろうか。
早朝の習慣を改めるならば、朝食後や午後の鍛練をより一層励めば良いはずだ。
細腰に手を添え、宵の熱を思い起こす。
「痛む箇所は、ありませんか。」
照れて俯いてしまった顔を上げさせ、唇を塞ぐ。
「想いの丈に任せ、己の欲を抑え切れなかったのは…まだ私が未熟者だからですね。」
大いに啼かせてしまった。
彼女を何度果てさせても、己が何度果てても、足りなかった。
二人して疲れ切って昏睡してしまうほどの、甘く激しいひとときだった。
それなのに。
己の雄はもう既に、彼女の内に収まりたいと硬さを顕示している。
「…あっ…!」
無言で先端を押し挿れれば、熱い襞は昨晩より狭く熟れている。
激しく行い過ぎて、腫れてしまっているようだ。
しかし そのきつさが、尚の事 欲を煽る。
「もっと…腰を上げてください。」
一夜にして、どうすれば彼女の身体がどうなってしまうか、把握してしまった。
更に深く交わり、彼女の腹側へ己を押し込む。
「あ…あっ!」
名無殿の内側から熱い飛沫が溢れ、また私の大腿と寝具を濡らした。
明るい室内では、煌めく雫が良く見えた。
蠱惑的な光景に目眩がする。
昨晩の、めくるめく終わりないまぐわいを彷彿とさせる。
もう…止まらない。
止める気もない。
「ゆうべ、あれほど出して差し上げたのに。まだこんなにも…。」
「…だっ…て…!」
「わかります。私の大きな身体が…太く長いこれが、好きなんでしょう?」
「そん、な…違っ…。」
「恥ずかしがらずに、昨日のように素直に仰ってください。」
「ん…あぁ…っ!」
言葉で煽りながら昨晩放った精液を掻き出すように大きく抜き差しすれば、快楽の証は泉のように涌き出してくる。
これであなたも、もう…止まらない。
途中で見放す気もない。
あなたの身体は、あなた以上に私が知ってしまった。
そして私の身体は、あなたの虜になってしまった。
私達は、求め合うことを止められない。
背中を、細い腕に抱き締められる。
それが愛おしくて、夢中で最奥を突き上げ続ける。
「名無…殿、っ!」
「ぶん…しゅ、…どの…!」
私の動きが激しすぎて、必死にしがみついている名無殿は私の名前すら満足に呼べない。
それでいい。
あなたの想いは、痛いほどに伝わってきている。
私の想いも、正しく全てが伝わっているだろうか。
「…そろそろ、っ」
「っ…、はい…」
終わりが近いことを伝えると、頷いてくれた。
もっと傍に名無殿を感じたくて、唇を合わせる。
奥に潜む舌を絡め取り、吸い上げる。
二ヶ所の接合部から響く淫らな水音に、追い立てられる。
「…は、…っく…ぅ…!!」
唇を離して歯を食い縛り、全力で絶頂を迎えた。
想いの全てを、名無殿の中へ注ぎ込む。
大きく呼吸を乱す私を、優しいまなざしで名無殿が見上げている。
私も出来うる限りの柔らかい視線で見下ろした。
「私の想い…伝わりましたか?」
にっこりと頷いてくれる名無殿に、また伝えなければならない熱量が涌き上がってきてしまった。
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2018/11/03
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