短 文
□穏やかな午後
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「昼寝をするには 絶好の天候ですね。」
裏庭の大樹の木陰で 一人密かに呆けていると、突然声が降ってきて驚く。
「っ、…荀攸殿。」
「初めて見ます。何時如何なる時も周囲への警戒を怠らない貴女の、寛いだ姿。」
見上げれば、いつもと変わらない 感情の読めない荀攸殿の顔。
慌てて姿勢と表情を引き締める。
「驚かせてしまい、すみません。俺には構わず どうか、そのままで。」
荀攸殿は、あろうことか肩が触れてしまうのではないかと思うほど近くに座ってしまった。
緊張で背筋が伸びる。
「此処の微風は、心地好いですね。貴女の 秘密の休息所、ですか?」
「ええ、まあ…。」
小鳥が木の枝に留まる。
別の鳥が、青い空へ飛び立つ。
「情報共有、という観点からすれば 俺からも一つ、秘密を明かさないと不公平ですね。」
真っ直ぐ前を見つめたまま、荀攸殿は呟く。
「俺には、密かに想いを寄せている人が居ます。」
ちくり、と胸に棘が刺さったような感覚を抱く。
いや、これは違う。
彼と私は、単なる同僚で。
「想い人の憩いの場を掻き乱してしまった事は申し訳無いと思っていますが、こういう類いの話をする機会は今しか無いと判断したので。」
…え、今…。
想い人…?
憩いの場?
理解が及ばず、隣に座る彼を見る。
ほんの僅かだが、いつもと顔つきが違う。
眉尻が下がり、口角が上がっている。
「…ここまでの俺の言葉で、御理解頂けると助かるのですが。」
溜め息。しかし表情は負のそれではないように見える。
「やはり伝わっていないようですね。…一度しか言いませんので、心して聞いて下さい。」
耳元に寄せられた薄い唇が紡いだ言葉。
-初めて見た、と言うのは嘘です。此処でうたた寝をする名無殿を見守るのが、俺の癒しの時間でもあります。-
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2018.04.29