短 文

□月夜の煙
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きぃん

銀の箱を開く時に鳴る音。


じゅりっ

火が灯る音。

葉の詰まった紙筒に、熱が移る。


ぱちっ

箱が役目を終え、閉じられる。

辺りに漂う、葉の燃える薫り。


彼女が それを仕舞う前に、奪い取った。

まじまじと、見詰める。


月明かりを受けて鈍く輝く銀色。

簡素な彫刻。

開閉できる部分には三日月と星。

胴部分には、背中合わせになり顔だけ向かい合わせる二匹の猫。

その尾は交わり、この世界で'心の臓'を現す紋様を象っている。


「まったく…」

俺は、溜め息を吐いた。


彼女は肺に深く染み込ませ、煙は吐き出さない。

紙筒から虚しく立ち上る煙。


「そんなものより、俺の唇を味わえば良いものを」


彼女は僅かに微笑む。

あなたを満たす細筒が、怨めしい。


喫する合間に、くちづけた。

苦くて甘い唇を、舐めとる。



「こちらの方が、健康的な口満たしなのでは?」


彼女は答えない。

苛々しつつ、舌打ちしてしまった。


それを奪い、一口呑んでみる。

やはり煙くて、噎せてしまう。


「止めといた方がいいですよ」

やっと声を聴けた。


葉が燃え尽きる。

残った綿を灰の積もる小箱へ棄てて、名無は手を差し出す。


「返してください」

唇には、新しい紙筒。


「嫌ですね」

俺は、奪い返されぬよう銀の箱を握り締めた。


紙筒を取り上げ、言い切る。


「存分に啼かせてやりたい気分です」


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2018.04.19
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