ブチャラティ 長編夢
□28.Reminiscenza V
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第7章「Reminiscenza V」
Capitolo7《追憶 05》
ソフィア:side
窓から漏れる透明感のある青白い光。
目が醒めると、
ぼんやりとした輪郭がクリアになっていく。まだ朝が早いので全体が青白い。見慣れた自分の部屋の景色がまず飛び込んできて、その後すぐに背中に体温を感じた。
あぁ、夢じゃなくて良かった。
久しぶりと彼と肌を重ねたが、
彼は相変わらず私を後ろから抱きしめて寝る癖は変わっていない。
彼にガッチリとホールドされている為にどう抜け出そうと考えていると……。
「Buonjoruno.ソフィア……、夢じゃないよな……」
ゆっくりと、寝ぼけた……
色気すら感じさせる低く掠れた声で彼は私を呼ぶ。
朝起きたばかりだというのに、
彼があまりにも色っぽくドキドキする。
「私も起きた瞬間に同じ事考えていた」
そう……夢じゃなくて良かった。
2人同じ事を考えていただなんて嬉しい。
「そうか……、じゃあいいんだな?」
「いいって?……ンッンン」
いきなり、ひっくり返しされ彼と向かい合う形になる。驚いているとそのまま唇を塞がれ何も言えなくなる。
急なキスにびっくりするが、ゆっくりと丹念にキスをされれば私ももう何も考えられなくなる。
離れていた時を取り返すかのように、私達はまた重なり合った。
………
………
ブチャラティ :side
俺はソフィアに注いでもらったカップチーノに口をつける。テレビの電源をつけた彼女がニュース番組にチャンネルを切り替えていた。
その瞬間、昨日のパーティーにいたターゲットの中年の男が映し出される。最後に見たのが社交的な笑顔だったせいか、テレビに映し出された非常に憔悴している様子は別人だと思うほどだ。
ニュースのテロップから概要を把握していく。違法取引リストが揺るがない証拠になっている。ナスコスタ社、社長のアレッサンドロ・スカルピは容疑を未だ否認し続けているが、証拠があがっている以上、認めるのは時間の問題だろう。株価は下がりイメージ回復は厳しい。
なるほどな……。
「昨日のあの依頼は、ライバル会社のイメージ失墜を狙ったものだったという事か……」
俺がそう断言すると、ソフィアはニンマリ笑う。
「なんだ……、違うのか?」
「そう、ライバル会社からの依頼だと思うじゃない。でも違うんだよね。依頼主は……あのターゲットの息子なんだよね」
「あの男……ターゲットの息子か。一体どういう訳で自分の会社と父親が困る事をしたんだ?自分自身も困るはずじゃないのか?……」
「それにはね、話せば長いすごい事情があるのよ……聞きたい?」
「ああ。」
俺が答えると彼女は掌を俺に差し出した。
「聞きたいなら、情報料払う?」
そう悪戯っぽくニヤリと笑うそこにいた女性はまさに情報屋そのものだった。俺は苦笑しながら、いいや結構だ、と断る。
「金を払うほど興味がある話じゃないしな……、例えばソフィアとその男が仲睦まじい親密な関係にあるって言うなら聞く価値はあるな」
「てっきり、そういう話は聞きたくないものだと思っていたけど意外だね?」
「話を聞いた後、どうするか考えたいからな……。」
「どうするって……、誰に何するつもり?」
「ソフィアの想像に任せるさ」
すると彼女は青ざめる。一体どんな想像をしたというのか判らないが、それは置いておこう。
「ソフィア……、率直に聞きたい事がある。……まだこの街で情報屋を続けるつもりなのか?」
「ええ、続けるつもりではあるけど……、またあのリストランテに戻るのもなんか違うかなって思ってるからね」
彼女の目を見ると決意は硬そうだった。
心配ではあるが、俺たち組織と関わるよりはずっと安全だろう。
「そうか……。そうなると、なかなか直接会える機会は少ないな。残念だ」
「夢の中で会えるから、私はそれだけでも嬉しいよ。ずっと、会えなかったから」
「そうだな……。この半年間、会えない日が続いたからな」
俺たちはお互いにようやく素直になれた。
世の中に溢れている行き違いは本当に些細な意地の張り合いで起こるものだと身をもって知った。
突然携帯が鳴り出した。
すぐに取ると、不機嫌そうなフーゴの声が聞こえてくる。
Pronto?ブチャラティ、今どこにいるんですか?まさかソフィアさんのとこじゃありませんよね?
俺は歯切れの悪い返答をすると、一際大きなため息をついた彼から
昨日のことでアバッキオがあなたに聞きたい事があるみたいですよ。いいですね
「ああ、すぐに行く。」
俺のやりとりを見ていたソフィアは少し寂しそうな目をした後、
「呼ばれちゃったね。行ってらっしゃい〜フーゴさん達によろしくね」
「あとソフィア……君の事を俺の仲間だけに話してもいいか?」
「いいよ。だってそもそも私は隠す必要ないと思ってたもの」
「隠してきたのはなるべく危険な目に合わないようにしたかったんだが、仲間内で隠しきれなくなったんだ」
「気にしないで。私は、私自身の事を知って貰ったその方がフェアだと思うの」
「そう言ってもらえると有難いな。また今夜にでも夢で逢えるといいんだが、気が向いたら夢で逢いに来てくれ。grazie…ソフィア」
「私の方こそ、本当にありがとう。ブローノ……んっ」
俺は昨夜山分けした報酬のバッグを持ちあげ、ソフィアに一度キスをした後そのまま彼女の家を後にする。
アバッキオに何を言われそうか大体想像がついていた。ソフィアの事は極力知られたくなかったが……仕方がないな。怪しまれても当然か……。昨日の彼女のあまりにも酷い演技を思い出しおかしくてつい口元がゆるんだ。
アジトへ向かう足取りは自然と軽く感じる。結構な額の報酬にソフィアとの関係が戻ったんだ。これ以上に幸せな事がある訳がなかった。
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