ブチャラティ 長編夢

□23.Sospetto V
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第6章「Sospetto V」
Capitolo6《疑惑 05》


アバッキオ:side





「うッ!!!」

… …

急に水なのか冷たさで
目が覚める。

が、暗くて何も見えない。
それどころか身動きが取れない。
腕を動かそうとすると手錠が食い込んでいた。
冷たい床の感触と酷い匂いでここが
まだ下水道の床だとわかる。

口の中は鉄のまずい味が広がり
吐き気にも似た感覚を感じ
俺は唾なのか血なのかわからないものを吐く。

立ち上がる事も出来ない。足も拘束されていた。
もぞもぞと体を動かすと、
突然光で照らされ、
眩しくて目を瞑る。

「女ってなめてたろ?まぁイタリアーノだから仕方ねぇかも知れないな。女にはひどいことはできねェって」

逆光で姿が見えないが、その声の主はしっかりとわかる。
先ほどまで戦った相手だ。
逆光じゃなくてもずっとフードを深くかぶっていたからよく
見えないだろうが…

「お前が女っていう腕力かよ」

地面に這いつくばりなりながらも、
眩しい光の方を睨む。

「まぁ、あんたはなかなかに喧嘩は強い方だったみたいだから楽しかったけどね、なぁ、アタイはあんたに聞きたい事があんだよ。あの女はブチャラティのなんだ?」

「あの女って…どいつの話だ」

「しらばっくれてんじゃねェよ!!」

ぐッ!!

女が俺の腹に蹴りを入れたせいで
また口の中に苦い鉄錆の味が広がり吐き出す。

俺が無言を貫くと、

「ソフィアって女だよ、その女はブチャラティとどう関係するのか言えよ」

ああ、リストランテの古い知り合いだったよな。

「知らねェよ」

しゃがんだ女が俺に嬉しそうに言う

「ああ、いいことを思いついた。あんたが答えないって言うなら直接本人に聞くしかないよな」

「お前は、…なんでそんな事知りたがってんだ」

「アタイと同じ痛みを味あわせてやりたいだけさ、あんたは本気で知らねェみてェだから、直接口を割らせるだけだな」

そう言うと目の前の女は俺から離れていく。

「おい、どう言う意味だ!おい、待て」

俺が声をかけても、
そのままどこかに行ってしまった。

ソフィアって女はただのリストランテの知り合いだろ?
一体なぜ、ブチャラティとの関係を聞かれてるんだ?

俺がブチャラティと関わるようになったのはつい最近だ。
だから俺は知らねェ。何かあんのか?

ああ、畜生がッ。


… …

… …




ソフィア:side





デンティって男は上機嫌そうに、
私の側でよくわからない話を続ける。

「君のウェディングドレス姿は大層綺麗だろうね、色々と決めないといけないから大変だよ、ねぇ、どんな結婚式がいいかな?」

ウェディング…

結婚式…


「… …」

恐怖のあまり
相手の言葉の意味が理解できず

入ってこない。

何かを話しかけているのはわかる。

でもそれが理解できない。
私は部屋の奥をぼうっと眺めていた。


「どうして、何も話さないの?ああ、照れてるんだね。
 そうだ、そろそろお腹が空いただろう?何か食べ物を持ってくる。本当は外に連れ出したいけど、あぶないギャングがまだ君を探してるだろうからね…」

お腹空いて…ない

外…ギャング


ギャング…

そうだ、ブローノ!
ブローノが探してくれていると言うなら、
私もしっかりとしなくちゃ…

男が後ろを向いている今なら
眠らせる事ならできる。

「眠らせて」

私はフォアビデン・ドアを呼び出す。
彼女の顔にかかっている藍色のベールがスルスルっと広がり男を包み込んだ。

ドサリとその場で崩れる…。

よし、眠ったようだ。

フォアビデンドアに呼びかけて
手錠を外せないかと聞く。
すると…

私ニソノ 力 ハナイ…残念ナガラ外セナイワ

そう…
じゃあ本当にブローノ達が助けに来てくれるを待つしか
なさそう。

どうしようか考えていると
足音が聞こえてくる。

もしかして、ブローノ!?と思ったが
足音が妙に軽く彼ではない。

私は動けずじっと待っていると

そこに現れた存在に困惑する。
フードを被った女性。

身長は私と同じくらいのやや小柄の女性。
フードに隠れて顔は見えない。
だが彼女は私を見た…いや、私の右側にいるフォアビデン・ドアに確かに視線を投げた後、床に転がっているデンティをみて、もう一度私を見つめ口を開く。

「お前…スタンド使いか。で、デンティを殺したの?」

私のフォアビデン・ドアが見えるって事は…
この人は間違いなくスタンド使いなのだろう。
そしてこの男、デンティと知り合いらしい。

「…この男を殺してないです、眠らせただけです」

「へぇ〜…眠らせることができるスタンドか」

そう言うとまじまじと私を見るが距離は詰めない。

「で、スタンド使いだって言うのに、手錠を外せてないところを見るとパワーはないって事だね。このまま勝手に逃げる事はできないってのはわかる。だけど、アタイがあんたに近づくのは得策じゃなさそうね。そうだ…いいことを思い出した!」

すると彼女は私の前から走って行ったと思うと

すぐに戻ってきた。
信じられない事に片手でアバッキオさんを
引きずってきた。

アバッキオさんの身体の大きさからも体重があるだろうに、まるで彼女にとってはなんて事の重さがないのか…

アバッキオさんは腕と足を手錠で拘束され、
意識を失っている。
口や頭から血を流しているところを見ると
かなり乱暴を受けたようだった。

私は息を飲む。

「なぁ、確か、ソフィアだったよね。あんた…スタンドを引っ込めないと、この男をこれでぶっさすぞ」

そう言ってフードを被った彼女はペンを取り出し
アバッキオさんの喉元に突き立てた。
私はすぐにフォアビデン・ドアを引っ込めるしかできない。

「よし、いい子ちゃんね。あと、あんたに聞きたいんだけどさ、ブチャラティとあんたはどんな関係なの?ねぇ」

「え…、えっとリストランテの店員とお客の関係ですよ」

「嘘言ってんじゃねぇーよ、くそアマが!」

フードの女は激昂し、アバッキオさんの喉元にペンを刺そうとする。

「や、やめて!!やるなら、私にして!!」

私が必死に言うと、
彼女は動きを止めて私に近寄る。

「ああ、あんたが身代わりになってくれるの。いいよ、いたぶるのは、あんたにしてやるよ。スタンドを出したら、殺すからな」

「はい」

これから、きっと拷問される。
でも…それでブローノ達が危険な目に合わないなら
それでいいのかも知れない。

彼女はフードを突然、私の目の前で外した。

目の前の光景に唖然とする。
彼女の顔は真っ赤だった。
おそらくこれは火傷。
皮膚が所々焼け爛れている。

「アタイのツラ、ひでぇもんだろ?これ、やったの…ブチャラティ達なんだぜ?」

ブローノ達が…

「まぁ、アタイの顔はどうでもいいけど、許せねェ事が、私が愛して愛して止まない男を殺した事だよ!!!だから、あの男にも同じ苦しみを味あわせてェんだよ!!ただ殺すだじゃ気が収まらない!心からの苦しみを味わったあとでしか死なせねェ!!」

彼女はそう言いながら、
ライターを取り出し、カチカチと火をつけた。

その火を私の顔の近くまで持ってくる。

「さぁて、手始めに少し炙ってみようかな、殺してしまってはあの男に見せつけられないからね…」

デンティに捕まっただけの方がまだ良かったのかも知れない。私はこの後訪れる、苦しみに…それこそ、耐えるしかない。

だけど…こう言う事なんだと。
ギャングと付き合う事はこう言う事だと。
私は思い知る事になる。



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