ブチャラティ 長編夢
□19.Sospetto
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ブチャラティ :side
「なるほど…その男はそういう訳で謹慎中って訳か…ちょっと様子をみてみるか」
俺は書斎でつい最近潰した組織についての報告書を作成しながら、
フーゴの話に耳を傾けていた。
「元警官なんか、信用できんのかー?俺、警官にいい思い出ないんだよなぁ」
ナランチャは不満げに口を尖らした。
だが数秒後、今度は打って変わって目を輝かせながら言う。
「でも、俺の次に入った事は、俺の方が先輩だよな!!後輩がつくのは悪くないかも知れねぇ!へへへ」
「ナランチャ…あなたは入って欲しいのか入って欲しくないのか一体どっちなんですか。全く忙しい人ですね!」
「お前たち気が早いな。俺がしっかりと見てからだ…さて、そのアバッキオという男がどこにいるかだな」
「探すのには苦労はいらないと思いますよ」
すると、フーゴが書類一式を俺に手渡した。そこにはレオーネ・アバッキオ、その男の写真と彼の経歴についてまとめたものだった。
「流石だな…フーゴ。しかし、探すのに苦労をしないとはどう言う事だ?」
「アバッキオという男は、どうやら事件があった宝石店によくいるみたいですから…」
「同僚が死んだというあの宝石店にか…」
「はい。店自体はもう移転していて、使われない廃屋にはなっているのですが…そこによくいるそうです。」
「なるほど…。いってみるか」
俺は書類に目を通しながらこの男について考えた後、部屋を出て元宝石店だった場所に向かった。
… …
俺は書類に書いてあった情報を脳内で整理した。
一年前か…Liceoを卒業してすぐに警察官になっている…そして積極的な検挙や仕事に精を出していたようだな…。
だが、その後一年経つと賄賂を受け取るなどし始め汚職警官になっている。
彼の警官としての信念を変えたものがなんなのかは分からないが、
きっと何か心に大きな出来事や、希望を抱いていた時とは、全く違ってしまったのだろう…。
そして、つい最近こんな事件が起きてしまったとなると悔やみきれないだろうな。
自分の汚職事件を隠す為に宝石店の強盗をすぐ撃つことが出来ずに代わりに相棒の警官が撃たれ、現在謹慎中。
フーゴがみかけたのもその宝石店となると、ずっとこのアバッキオという男は過去に縛られ続けているのだろうな。
… …
俺が様子を見に元宝石店だった店の壁にスティッキィ・フィンガーズを使いジッパーを取り付け、のぞいてみる。そこには確かに写真でみた男…アバッキオが壁に背中を預けて座り込んでいた。俺には気づいていないようで空虚な瞳で部屋を眺めつつ、酒を飲み干す。見るからに彼は光を失い廃人のようだった。
フーゴから話を聞く限り、組織≠ノ入りたいという話だったがどこまで本気なのか…。
俺はジッパーの隙間から覗くのをやめ、また翌日に様子を見に行くと事にした。
… …
翌日、俺は昨日の店の近くを通りがかったのでちらりと様子を見る。やはり、アバッキオはそこにいた。
相変わらず俺が覗いていても気づかないようだった。その深い闇を覗いているような目には見覚えがある。
ソフィアをバーで見かけて彼女の虚ろな目を見た時と同様…
過去の何もできない無力な自分を見ているようだった。
アバッキオはしばらくいた後、酒瓶を片手によろよろと立ち上がった。
俺はバレないように、そっとジッパーを閉じ彼を仲間に迎える決心をした。
俺はアジトに帰りナランチャ、フーゴにその事を報告した。ナランチャは後輩ができると喜び、フーゴに関しては…予想していたと言わんばかりだった。
… …
… …
アバッキオ :side
その日の夜は丁度ひどい雨が降っていた。
俺はいつもの場所に身体を預ける。
ボトルの口から直接、酒を煽りながら、
この廃屋で思い出す。
相棒が目の前で撃たれ命を落としたシーンが
壊れたレコードのように何度も、何度も聞こえ見えてくる。
なぜ生き残ったのがあいつで、
俺はあの時動けなかったのか…
「アバッキオ…そいつ銃を持っている!!」
目の前で倒れる相棒のことを忘れられない。
ああ。全てがどうでもいい。
俺のせいで死んだ男がいた。
ただそれだけだ。
俺みたいなクズが生き残って、
あいつみたいな良い人間死ぬ世の中だ。
俺は重たい身体を引きずって
廃屋から顔を出すと…
目の前には紺色の傘をさした見知らぬ男がいた。
変わった髪型に白いスーツ。
ギャングだとわかった。
ギャングといえばつい最近きた
ベラベラと喋る男の事を思い出した。
そして、そいつとは違い
得体の知れないギャングは俺に向かってこう言う。
「アバッキオだったな…」
前来た男とは違う…
その男の瞳をどこまでも真っ直ぐだった。
こんな真っ直ぐな目をした男になら、
少しは話をしても良いと俺は思った。
… …
… …
「アバッキオ。大切なのは結果ではなくそこに至る道筋だ」
そう言う目の前の男は傘を閉じ雨に濡れながらも、
俺の方を真剣な目で見つめる。
「俺のチームにこい。過去に縛られたまま、死ぬな」
俺はもう心なんざ忘れたと思っていた。
だが、この男の言葉は死んだような俺の中にも
熱い炎のように照らしていくように感じた。
廃屋を振り返って見る。
そこにはどこまでも暗い過去が広がっている。
過去に縛られたまま、死ぬな
と言う言葉。
目の前の男からは確かな光を感じた。
そしてその言葉は俺の心を大きく変えた。
酒のボトルを置き、
俺は踏み出す決意をする。
アスファルトの道路を挟んだ、
この男の元へ。
立ち止まるのではなく、
前に進むことにしたんだ。
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