ブチャラティ 長編夢

□14.Angelo
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第5章「Angelo」
Capitolo5《天使 01》


ソフィア :side








暗い路地を私はいくつもの追っ手に
追われながら走っていた。
遠くに見える複数の黒い影と複数の足音。
目の前の男に助けを求めようと声をかける。

振り向いた男の顔は昔の仕事の同僚…
ヴィーノで…
そのまま私を押し倒し
首をキリキリとしめる。

く、苦しい。

「ソフィア…逃げられたと思うなよ」

「逃げられない…逃げられない…」

彼はその言葉を狂ったレコードのように何回も呟く。
私は首を絞められ意識が朦朧としながら、
逃げられないと言う言葉だけを
ただ呪文のように聞いていた…

次第に意識は反転する。





真っ暗な世界から
突然、真っ白な世界に変わり驚きハッとする。

はっ!!

眩しい光と鳥の鳴き声が朝の訪れを告げる。

先ほどのは夢。
なんて悪夢…。

そして視界に映る見知らぬ部屋に急に怖くなる。
ここはどこ…?
ん?

一瞬みじろぐがすぐに背後から腕で抱きしめられている事に気がついた。恐る恐る抱きついてる主を頭を動かし確認する。

あっ、ブチャラティさんッ!

私を後ろから抱きしめている、
彼の姿を見た瞬間、
心臓がドクんと脈打ち
昨晩の記憶を取り戻す。

夢じゃなかったんだ!

昨晩は本当に色々あった。
ブチャラティさんと
深い口づけをした後…
彼にそのままレットまで運ばれて…
そして私たちは…

ッ!

思い出すだけで心臓が高鳴り
恥ずかしさで顔から火が出そうになる。
しばらく顔を手で覆っていると、
視界が暗くなると余計に感じる人の熱。

彼の直の体温が私の背中に当たっていて、温かい。
人肌ってこんなにあったかいものなんだ。
恥ずかしいけど、なんだか幸せ。

私は愛おしい彼の寝顔をじっと観察してみる。

彼の閉じた瞼からは綺麗に整った
長い睫毛がちらりとのぞく。
濃い藍色のボブの髪はやや乱れ、
普段の頼もしい様子から考えられないほど中性的で美しい。

とりあえず、服を探そうとレットから起き上がろうとするが、案外がっちりと固められている彼の腕からは逃れられそうにない。
何とか逞しい筋肉質な手の中からゆっくり這い出ようと試みると…

「ソフィア、Buongiorno…」

今起きたと言う感じの、とろんと眠気の残った声で挨拶をするブチャラティさん。彼の瞼はまだ重そうで半分目を閉じかけている。

「ブチャラティさんっ…。Buongio…んッ」

私がおはようと返す前に私の背中に彼は一度チュッと口づけをする。

「ちょ、ちょっとブチャラティさん!くすぐったいです」

「ソフィア…、この後大事な話をしたいんだ」

「は、はい」

私は身支度をしようと、抜け出そうとする。
しかし、ブチャラティさんの後ろから回された腕は
緩めようとしない。

「ブチャラティさん?」

「大事な話をしなくちゃならないが…だが、もう少しだけでいい。…後少し、このまま抱きしめさせてくれ」


*****

*****


私は下腹部に鈍痛を抱えながらも、
ブチャラティさん、フーゴさんとの3人でアジトのリビングに座り、大事な話をする。
 豆から挽いた香り高いカッフェを飲みながらも昨日の話をしっかりと整理していった。

まずは情報の整理から。

昨晩、彼らが私のために葬った
ズッケロ・ビアンコの組織の幹部とその付近にいた男についてブチャラティさんは私に尋ねた。
私は知りうる情報を全て渡す。

「Morte ・Gallo モルテ・ガッロという男はズッケロビアンコの組織の幹部だったみたいです。その男の側にいたのはヴィーノと言って私がもともと勤めていた会社の仕事仲間だった男です。その男はモルテ・ガッロと交流があったので私は元仕事仲間という口実で彼から情報を色々と引き出そうと夢の中にお邪魔してました。わかった事は、モルテ・ガッロを中心にセレブや富裕層中心に麻薬を売っているという事ですね。モルテ・ガッロという男の夢に入れば組織についての情報をもう少し集められたと思うんですが、彼の夢に入るのはすぐには危険だと思って…他の人の夢にお邪魔して対策を練ろうとしたら、ヴィーノからモルテ・ガッロに私を連れて来いと脅されてると連絡が入って私が昨日行くことになったんです…」

ブチャラティさんは首を傾げながらも
やや怪訝そうな顔で私に聞く。

「だが、危険だとわかっている状況でわざわざ助けに行こうと思うか?そのヴィーノって男とそんな親しい間柄だったのか?」

「そんな親しい間柄でも全然ないですよ。ただ…私はまた、断末魔を聞くことになるのが嫌だったんです…。ヴィーノを見捨てたら、彼の声が耳にこびりついて離れないんじゃないかと思うと見捨てる事も難しくて…」

この時、フーゴさんは理解ができないと言った顔をしていた。ブチャラティさんはどこか遠くを眺めていた。

ギャングである彼らは人の命を奪う事に、
そこまで感情を持って行かれないのだろう。
だけど、私はそうはなりきれなかった。

「あの…昨日は本当にありがとうございました」

私はあらためて二人にお礼を言う。

「本当に愚かでした。昨日の事で私には力≠熈覚悟≠烽ネかったと身にしみましたので今後は勝手に深入りしようとはしません」

私の言葉にブチャラティさんはうなづいた。フーゴさんは「まぁ、それが賢明でしょうね」と呟きカッフェを一口、口に運んだ。

「問題は、これからなのだが…。ソフィア…昨日俺とフーゴで始末をつけたと言っても、幹部の一人だ。組織にとっては痛手と言っても壊滅的な被害という訳ではない。だからまだ身の安全は確かという訳じゃないと考えるのが無難だろう…」

そして真剣な青い瞳で私を映したブチャラティさん。

「証拠は大して残していないつもりだが…俺たちに繋がる証拠を手に入れている可能性も十分考えられる。なるべく俺たちと表立って関わるのはまずいだろう。
ソフィア、俺はソフィアの恋人になりたいが、普通の恋人のように結構な頻度で会ってデートする事は難しいだろう。会えるとしても夢の中とレストランで、ぐらいだ」

「私は全然問題ないです!ブチャラティさんと恋人になれるってだけで十分ですっ」

ブチャラティさんは柔らかい笑顔を向ける。フーゴさんはやれやれと言った表情。

「あと、ひとつ…これはかなりどうかと思うんだが…」

彼は言うかどうか一度迷った後、

「君以外の女性と複数人接触しようと考えている。そうした方が君の存在を隠す事ができるかも知れないからな…。たとえ、俺が他の女性と出歩いていても目を瞑ってくれないか?」

こんな提案、世の女性が見れば浮気の正当化のように思うだろう。正直に言えば嫌だったけれど駄々をこねても仕方がないので、渋々了承した。
彼がいくら私の事が好きだと言ってくれていても、きっとデートの光景を目にしたら嫉妬で憂鬱になりそうだと素直に思った。だけども、彼は私の身の安全を考えての事だろう。だから、我慢しなくては…

「正直に言えば、私はすごく嫌なのですが、でも…我慢します!」

フーゴさんに私の能力についても話した。フーゴさんは私に暗殺チームがあるからそこに配属されればいいんじゃないかと提案したが、あっさりブチャラティさんにダメだと制止された。

私はあのリストランテでそのまま働き続けるかどうかの話にもなったが、組織の縄張り内で身の安全を守りやすいので大丈夫だろうという話になった。

突然鳴り響いた携帯電話の音で
話は中断される。

ブチャラティさんの携帯が鳴ったようで
彼が電話に出る。
やや曇った表情の彼は携帯電話を片手に部屋から出ていき、そして…戻ってきたかと思うと

「しばらく…戻らないが、フーゴお前はソフィアの事を頼んだ」

そう言い残しどこかに消えてしまった。


*****

*****



ブチャラティ :side





俺はポルポさんの独房の前までくる。
ガラス越しの彼は相変わらず、その巨体通りの迫力で俺を見下げたままピッツアァを口に運んでいた。

「今朝の新聞を読んで、驚いたが…ズッケロ・ビアンコの幹部が行方不明だと聞いた…。溶けた肉体の一部分が見つかったそうだな。これをやったのは、フーゴと君だろう?」

「ええ。その通りです」

「君にしては随分と派手な事をしたなと思ってな。向こうの組織は幹部の一人が殺されて随分焦っている事だろうな。ブフフフ。」

上機嫌に言った後、すぐに冷たい表情に移り変わる。

「だが、あそことやり合うにはまだ早い。あまりにもお粗末なやり方だ。君らしくない…ブチャラティ…君であればわかるはずだ。叩くと時はとことんやらなくちゃ意味がない…」

ポルポさんが言うように、今回の幹部の一人を殺したところで逆に警戒を固めるだけの結果にしかならない。
どうせつぶすつもりでかかるなら、全員を叩ける状態にしなくちゃ意味がない。

「迂闊でした…」

俺はそれでもソフィアの命の危機に目をつむれるほど冷酷にも器用にもなれなかった。

俺が頭を下げると、しばらくそんな俺の様子をうかがうように俺をじっと見詰めた後に、

「前にも言っている事だが、私は信頼が一番大切な事だと思っている。それは君もわかっているはずだ。最近、どうも報告が遅いもので私は心配になるのだよ。

何か良からぬことを裏でやってるんじゃないかとな?」

「連絡が遅くなったのは、本当に申し訳ないと思ってます…ですが、俺は決して良からぬ事を企てる男じゃないです」

「まぁ、そうだと私も言い切りたいのだがね…。信頼は言葉じゃなくて行動で示して欲しいんだ。そこで、一つきみにやって欲しい事がある」

そしてポルポさんから下される命令。
その内容はあまり気分のいいものでは無かった。
だが、彼の信頼を取り戻すチャンスには違い無かった為俺はその準備に取り掛かる事にした。


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