ブチャラティ 長編夢

□13.Pazzo III
1ページ/5ページ

第4章「Pazzo III」
Capitolo4《変わり者 03》


ブチャラティ :side





******

******

あれから…一ヶ月か。
俺は一ヶ月前のフーゴのことを思い出しながら
病院の前まで来る。

俺はフーゴが救った
ナランチャという少年の見舞いに来た。
度々様子を見に来ていたが、
丁度今日退院できるそうだ。

病室でパイプ椅子に座って彼の様子を伺う。
彼が心配していた目もすっかりよくなっており、
気持ち自体もどこか前向きになっている様子だった。

病気が治ったんだ。
これでようやく真っ直ぐに
幸せな生活の一歩を踏み出す事ができるだろう…

そんな安堵に包まれた俺に
少年はベッドの上に座ったまま
質問を投げかけてきた。

「なんで俺なんかにこんなにしてくれるんだ」

その目は戸惑いに満ちている。

「わけなどない。そうしたいというのなら俺の家に泊まってもいい。だがガキは親の元に帰るもんだ。そして学校に行け。」

そして最後念を押すように「いいな?」と少年の目を見つめる。

「な…あ…あの もしかしてあんたはギャングなんじゃ…」

少年はつまりながら俺にきく。そしてさらに言葉を続けた。

「うちには帰りたくない。 
あんたのとこで仕事をさせて下さい!」

俺はその言葉に思わず激昂する。

「甘ったれった事を言ってんじゃねぇぞ!このくそガキが!もういっぺん同じ事を抜かしやがったらテメェをぶん殴る!」

ギャングにする為に治療をさせた訳じゃない。
これから明るい道に歩み出せるっていうのに、
ガキがふざけた事を言ってるんじゃねぇ。

少年は項垂れたが、強く言った分
分かってくれればいいのだが…。

俺は病院を後にして、フーゴと落ち合う。

「そういえば、フーゴ。お前が1ヶ月前くらいに連れて来た少年が今日退院するそうだ」

「それは、良かったです。」

「だが…俺の元で働きたいって抜かしやがったんだ。だから親の元に帰れ、学校に行けと説教をして来たところだ」

「まぁ、わざわざこっちの世界に入りにこなくてもいいですからね」

そう。こっち側に来る必要はないんだ。

ふと、ソフィアが俺の元で働きたいと言ったのを思い出した。彼女に関して言えばスタンド能力もあり、そして人も殺してしまっているから普通にこちら側に誘ってもいいという判断をしそうだったが、どうしても俺自身が受け入れられなかったんだ。

実際に彼女はリストランテで働き、生き生きと明るい世界で生きることができている。それを考えるとあの決断は正しかったと思う。

一度彼女にスパイの疑惑がかかったものの特にフーゴは証拠を突きつけて来る訳でもなかったので俺は今まで通りに彼女がいるリストランテで軽く話したりはしていた。


「ナランチャくん退院なんですね!良かったです!」

俺がソフィアにその話をすると、助けたフーゴ本人以上に喜んだ。

ソフィアの笑顔を見ると、
すごく安心する。

久しぶりに、彼女と密接に会うのは構わないだろうか。

そんな思いが、ふと俺の中に湧き上がる

「なぁ、ソフィア…。俺の手元を見てくれ」

俺は手帳を取り出し、フリーページにメモをする。

『Posso incontrarti nei miei sogni oggi?』
(今日の夢で君に会えないか?)

彼女の顔を伺ってみる。
いつもの彼女なら…
笑顔でSi.と書いてくれそうだったが

少し、何か迷っている表情を浮かべた後に
ボールペンで書き記す。

『Mi dispiace, vorrei venire volentieri ma sono occupata.』
(ごめんなさい。行きたいんですが…忙しくて…)

ソフィアは申し訳なさそうに
そう書き記して仕事に戻っていった。

断られると考えていなかった俺は、
少し呆然としてしまっていた。

俺はいつから
こんなに傲慢な性格になったのだろう。

トイレで席を立っていたフーゴが戻ってくると…

「ブチャラティ…どうしたんですか?」

「どうしたって…何がだ?」

「その…普段のあなたらしく無い顔をしていたので、つい心配になりました」

そう言ったフーゴはリストランテ内を見回しソフィアの方を見る。ソフィアはちょうどこちらを見ていたようで、フーゴとバッチリと目が合う。
少し申し訳なそうな顔をして、頭を下げた後、また仕事に集中する彼女…。

「ソフィアさんに振られたってところですか…」

「まぁ…そんなところだな」

自分で聞いたのに、俺の言葉にひどく驚いたフーゴ。

「え、本当にデートにでも誘ったんですか?」

「彼女はどうも夜は忙しいらしいんだ…」

俺はこの話を早く切り上げたいと思っているところ…
フーゴは怪訝な顔をする。

「忙しいって…仕事が終わった後は結構遅い時間ですよね…。ソフィアさんの態度的に、ブチャラティの誘いを断るのは違和感がありますね。もし僕の仮説通りなら絶対に断らないはずなんですけど…おかしいなァ」

「仮説…。あぁ、まだ言っているのか。彼女はスパイなんかじゃな無いのはこれでわかっただろ?」


フーゴには一切彼女のスタンドについて、
明かしていない。
確かに夜寝る際に会おうとしているのだから、
その時間に忙しいとなると…。

…。


…。


ソフィアの方を見ると、
店員の男と楽しそうに会話していた。

そんな彼女の様子を見ると
俺の心が妙にざわついた。

何故だか分からないが、
ソフィアと楽しそうに話している男が
ひどく気に入らなくなる。
別に彼が俺に何かしたわけじゃ無いのに…
理不尽な怒りが沸き起こって来るのは何故だ。

今日、彼女が断った理由は…

まさか…。

いや、もしかすると…。


彼女にそもそも恋人がいないと
今までの俺は何故、思っていたのだろうか…

新しい職場で新しい出会いがあった可能性もある上、
そもそも彼女と俺が会ったワインバーですでに
恋人が居た可能性もあったんじゃ無いか?

今まで全く意識をして居なかった事が
今になって、気になって仕方がなくなってくる。

「ブチャラティ…今夜、彼女を尾行してみませんか?」

突然、フーゴのとんでもない提案に俺は驚いてフォークを落としかけた。いや、落とした。

カラン。

店員がすぐに代わりのものを持ってくる。
俺は「すまないな」と謝りながら新しいフォークを受け取る。

「おいおい。容疑は晴れたんじゃなかったのか?」

「僕は…逆に、この時間、彼女は彼女の上司にあたる人物に報告する可能性を考えたので…上司という予想が外れたとしても、仲間にでも報告すると僕は睨んでいます。もし本当に今夜何もなければ僕は彼女を疑う事をやめます」

正直…
俺も彼女の様子は知りたい。
普段だったら絶対にやらないような事を
彼女が絡むとつい…やろうとしてしまう。

こんな事をやるのはどうかと思うが…
別に俺たちは聖人でも無い
ましてやギャングだ。

尾行する事には慣れている。
決して彼女にバレずに尾行できるだろう…。

これでフーゴが彼女を疑わなくなるなら、
これはこれでいい。

「本当に、今夜限りだ。それなら、俺も付き合う」

利害が一致した為、
俺たちは結局、仕事が終わった後のソフィアを尾行することにした。

.
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ