ブチャラティ 長編夢

□12.Pazzo II
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第4章「Pazzo II」
Capitolo4《変わり者 02》


ソフィア :side




街灯の光がうっすら反射した
黒い石畳を闊歩する。

私はリストランテで仕事が終わると
ふらっと例の組織の縄張り内であろう街を
見回って夢に見るターゲットを探す事をはじめていた。

実際、ランダムに数人夢で会って情報を聞いてみたが、
成果がまだ得られなかった。

このままではいけないと思い、
今日は店と店の間の通路に怪しいネオンに彩られた店などにも一度行ってみた方がいいのではと思い、
普段とは違って裏路地の方にも目をやる。

少し様子を見ようと路地裏内を歩いていると
突然、巨体の男が道を塞ぐ。
スキンヘッドで見事なタトゥーが入った、
いかにも危なそうな男だ。
私を見下ろし鼻でフッと笑った。

周りを見回しても人の気配が一切ない。
流石にまずいと思い、
私はゆっくりと後ずさる。

「おいおい、お嬢さんこんな所で迷子かい?」

「ま、間違えただけです」

踵を返し表通りに足を進めると、
いきなり肩を掴まれる。

「やめてください」

「お嬢ちゃん。いいものがあるんだが、買っていかないか?最高にハイになれるぜ」

きっとこの男が言っているいいものとは麻薬
このままだと危ない。
本当は出したくないのだけども、
もしスタンド使いだったら見られてしまう。

だけど肩を掴まれてしまった以上は出すしか方法はないだろう。
私はフォアビデン・ドアを呼び出した。

「眠らせて」

一言命じると、フォアビデン・ドアの顔にかかっている藍色のベールがスルスルっと広がり男を包み込んだ。
ベールに包まれた男は、そのまま身体をどさっと路地裏に横たえ眠る。

私は辺りに人がいない事を確認して、男の様子を伺ってみる。完全にぐっすりと眠って起きる気配はない。
私はカバンから手袋を取り出し、手袋をつけた状態で男の服の下を探ってみる。

私は敵対組織について調べると決心してからは、
必ずカバンの中に手袋など持ち運ぶようにしていた。
指紋一つ、証拠一つ残すわけにはいかないからだ。

やはり…麻薬≠複数所持をしていた。
そして、身元が確認できるものを発見する。

『Gaio Rossi ガイオ・ロッシ』

相手に顔と名前や呼び名がわかれば
夢で会うことができるのだが
流石に今日この男と夢で会うと危険よね。

この男が売人である事は間違いないけれど、
組織のものなのか個人なのかはわからない。

慎重にいかなくては…。

三日後に会って情報を得るのもいいかもしれない。

私はその場を足早に離れ、表通りの道のバーなどにお邪魔する。
すでに何回か通っている為、バーのマスターとは気軽に話せた。話をすると言っても、あくまでも一切麻薬に関係ない普通の世間話。
情報を仕入れるのは夢の中と決めているからである。

バーに入り浸っていると、色々な人間の噂話など
情報が舞い込んでくる。
今日夢で会う人の検討は概ねついた。


*****

******

「フゥ…」

家に戻ると、
さっきまでいた街と違って
静寂に包まれようやく落ち着けた。

食事、シャワーなどを済ませ
寝る準備を整えた。

レットの上のメモを確認する。

レットの側には常にいつでもメモを置いている。
夢で会って情報収集するのは、
一期一会にしなくてはいけない。
これが夢≠ナあり何かしらの能力と悟られては
非常にまずい事は重々わかっていた。

そのため、その一回夢を見る時に確実に聞いて
おきたい事を忘れない為である。

もちろん夢を見る相手の状況によっては、
聞きたいことも聞き出せない状態もあるけれど…。

私はターゲットリストを確認しペラペラめくる。
薬でいつもラリっているという赤髪の女性ルーナ。

『モウ…入レルワ…』

フォアビデン・ドアが準備を整えてくれた。
彼女、ルーナがすでに眠っているのは珍しい事だった。
早い段階で彼女に目をつけていたのだけど、
なかなか彼女は夜に起きていることが多い。

彼女が寝るまで待とうにも、私は私で仕事が入っている。
だからこそ、なかなかは入れずターゲットをいつも
別の人に切り替えていたのだった。

おそらく麻薬使用者である彼女から
有益な情報を聞き出せそう。

私は夢の世界に飛び込んだ。




*****




真っ暗な空間。
私は扉の前でイメージをする。

自分の見た目をしっかりと変える。
マスカレードマスクを被り、
ドレスをイメージする。
ドレスの一部にはナイフを潜ませる。

何かあった時の対策である。

準備が整い
ノックを3回。

そしてドアノブをゆっくりと回す。

いつもこの最初に扉を開ける瞬間が
一番緊張する。

扉を開けると…

目眩がしそうな異様なカラフルな部屋に
立ちくらみを起こしかけた。
複数の色が混じった目が回るよな模様。

周りにはぬいぐるみが散らばっていた。
そんなぬいぐるみがの中に一人の女性がいた。

そう、ルーナだ。
バーで見かけた赤髪の美しい露出の多い女性だが、
今こうして夢の中にいる彼女は
服装は子供に着せるような寝間着のような服をしている。
表情も非常に穏やかである。


「あなた、誰?」

彼女は私の姿を捉えゆっくりという。

「私は…メア」

夢の中で名前を尋ねられたら、適当な名前を言うようにしていた。

「メア…メア…知らない」

彼女は私の名前を何度か呟いた後、
興味を失ったように、ぬいぐるみで遊び始めた。

私は彼女のそばにそっと駆け寄る。

「何をしているの?」

そっと尋ねて見ると

「ぬいぐるみを探してるんだけど、見つからない」

そう答える。
彼女が手に持っているクマのぬいぐるみを見て
思わず聞いてみる。

「そのぬいぐるみじゃないの?」

「違う、これじゃない。ママが私に昔買ってくれたぬいぐるみ。でも、これは違うの。」

「どんなぬいぐるみか教えてくれたら、私も探すよ」

ルーナにぬいぐるみの特徴を聞く。
私はそのぬいぐるみのイメージをしっかりと聞くと、

複数のぬいぐるみの山から光るぬいぐるみが遠くに見えた。

そのぬいぐるみを持って来ると、
彼女はパッと私の手からぬいぐるみを奪いぎゅっと抱きしめる。そんなぬいぐるみを抱きしめる姿はまるで幼い少女のようだった。

「とても、大切なぬいぐるみなのね」

「お母さんが、優しい時のお母さんが私にくれたものなの」

優しい時と言う言葉が引っかかる。

「優しい時?優しくない時があるの?」

「今は、優しくない。お母さんは薬ばっかりやってるの。でも私も全て嫌になって薬をやってる」

彼女の腕をよく見るといくつもの注射の跡がある。

私は心にグっと重いものを感じた。
母親が薬をやっているせいで、その娘である彼女は
人生を狂わされたのだろう。そして、その母親も何かあって
すがるものとして悪魔の囁きに乗ってしまったのだろう。

「ルーナ…あなたに薬を売っているのは誰?」

私は悲しみを堪えながらもきく。

「Morte ・Gallo  モルテ・ガッロっていう男」

「その男にはどこで会えるの?」

「6番通りにある店の裏路地の店によくいるわ。
 でもメアは行かないほうがいい。危ないから」

「ありがとう、ルーナ」

彼女に別れをいい、私は扉を出る。
扉を出ると、自然と夢から覚める。

疲労感は感じない。
だけど、心は大きく沈んだ。

人の心に入るというのは、
それも、麻薬を使用している人間の心には
必ず闇や悲しみや心に秘めたものがある。

ブチャラティさんが思っているように、
私も麻薬が許せない気持ちが募った。
ベッドとの隣のメモ帳にしっかりと名前を記載する。

時計を見ると、職場に向かうのにギリギリな時間になっていた。私が慌てて支度を整えたのは言うまでもない。


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