ブチャラティ 長編夢

□11.Pazzo
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第4章「Pazzo」
Capitolo4《変わり者 01》


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*****



「彼…全然こないわね」

リリアーナはオーダー表を厨房のフランカに手渡しながら項垂れる。フランカは華麗に料理を皿に盛り付けながら「忙しいんじゃないの」と応えるが、彼女のあまりにも適当な言い振りにリリアーナはムッとした。

「フランカ。あなたはショックじゃないの?」

「そりゃ、来なくなったのは寂しい事よ。でもそんな事気にしてる暇もないわ。さっさと働く働く!はい、これ次のテーブルに」

フランカは颯爽と次の料理にかかっている。

ブチャラティがあまり顔を見せなくなって、
彼女たちよりもずっと心に響いていた女性スタッフが居た…。


ソフィアである。

仕事はしっかりこなすソフィアだが、
明らかに気持ちが沈んで居た。
来店する扉の音を聞く度に、
彼が来ないかと期待をしているソフィア。






ソフィア :side



ブチャラティさん…無事なのだろうか。

彼の事を考えると胸が痛くなる。
すでに一体、何日、何週間が経過しただろうか。
彼とは全然会えなくなってしまった。

最後に思い出す彼の決意に満ちた表情。
麻薬を取り扱っている組織を許さない気持ち。
絶対に彼が成し遂げようとしている事が
危険である事には間違いない。

父を麻薬に殺されたも同然のブチャラティさんは、
きっとどんな危険な事も平気でするのだろう。

彼はギャングなのだから…。


彼は彼で自分の決意で行動しているのに、
会いたくなってしまう。

これは、自分勝手な気持ちだと分かっている。
それでもつい、いつも頭に思い浮かべるのは彼の事。

一体、彼は今どこで何をしているのか
知りたくなった。

もうフォアビデン・ドア≠使って彼の夢に
お邪魔する事も出来ない私は情報を知り得ない。
彼の仲間に加わったフーゴさんという人は本当にたまに
一人で訪れる。

私が彼にブチャラティさんのことをサラッと聞いてみたが、
彼はツンとした態度で、
「僕が上司の個人情報を他人に言って回る趣味を持っているように見えますか?」
と返されてしまい、何も聞けていない。


無事だろうか?


あ…。

ふと、思い出す。
情報を知り得る人間を。


****


****


私は休日を使って、寂れた喫茶店を訪れる。
店の中に入ろうとした際、珍しくお客さんとすれ違う。
今すれ違った人は…
普通のお客さん≠ネのだろうか?
それとも私同様に、
普通ではない方のお客さん≠ネのだろうか?
少し気になったが、私は目的を果たすべく入店する。


店の扉を開け、入ると…
そこにはやはり例の店主がいた。
店には以前訪れた時と同様に、
店主以外は、相変わらず誰もいない。

無愛想な表情を浮かべていた彼は、
私の姿を見るとにこやかに声をかけていた。

「久しぶりだな。どうやら、リストランテではうまくやっていっているようだね。それで、ここに来たのはブチャラティがあまりにも店に寄らなくなったからだな」

まるで占い師のように、
スラスラと私の心を見透かす。

さすが、情報屋である。

「そうですね…。お見通しって訳ですか」

「まぁ、今彼のことを聞きたがる人は多いかも知れねぇなぁ。おっっと、口が滑っちまった」

「どういう意味ですか!」

私が前のめりに聞くと店の店主は
ニッコリと笑い、

「で、どうするんだい?十分なお金はあるんだろうな?」

「お金はあります」

「じゃあ、あんたの聞きたい事をズバリ言ってくれ。
 一体どこまで聞きたいんだ?」

「ど、どこまで…。」

私は少し考えてみる。
そもそも、こうやって情報屋に来てしまう事自体
やり過ぎである。ブチャラティさんのプライベートっていうのもあるのだ。どこまで聞くのは許されるのだろうか。

「えっと、そうですね。彼は無事ですか?彼の状況だけ知りたいです」

すると、彼はささっとメモ帳に数字をかき、
私の目の前に翳した。

「それが知りたいなら、こんくらいの金額になる」

う、うん。高い。
出せない事はないけど、
そこそこ高い金額である。

「これで、いいんですよね」

私は店の店主にお金を手渡す。
すると、店主はああと言って教えてくれた。

「無事って言い方をしていいか分からない。
 ちょっとした負傷があるくらいさ。
 あとブチャラティの状況だが…。
 色々とフーゴって男を連れて動き回っているようだ。
 他の組織の情報を調べ周り、実際に潰しにかかっている」

無事だったのは良かった。
でも負傷があるという事は相当な危険を冒しているという事だ。他の組織との抗争をやっぱりしているんだ…。

情報をもらうともっと知りたくなってしまう。

「他の組織って、組織の名前を教えてください」

「その情報は料金外だ!」

「…ッ!いくらですか?」

「やめとけ。ここまでにしといた方がいい。
 これは、嬢ちゃんの為に言ってるんだ」

店の店主は私を咎める。
それでも私は食い下がる。

「次…ブチャラティさんが標的にしそうな組織がどこだかわかりますか?この金額でどうです?」

私がさっとメモに書き加えた。
伊達に社畜をしていた訳ではないのだ。

「あんた、相当にいかれてるな。
 言っておくが、これであんたの命の保証はなくなった。
 組織の事を嗅ぎ回ってるのがバレたら、
 あんたは完全にバラバラにされて海に投げ込まれるか
 分かったもんじゃないんだ。
 その覚悟はあるのか?」

そうだよね。

ここで、踏みとどまれば、人並みの幸せを送れる。

でも、私が好きになってしまったのはギャング。
そしてすでに私は殺人を犯している。

それに…
フォアビデン・ドア≠手に入れたのは、
きっと意味がある事だと思う。

彼に会えない普通の幸せよりも、
彼に危険でも近づきたいし役にも立ちたい。

いかれた女でごめんなさい。

それでも、私は…。

あなたの事が好きなんです。


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