ブチャラティ 長編夢
□9.Peccatori III
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第3章「Peccatori III」
Capitolo3《罪人 03》
ソフィア :side
「早速だが、おめでとう。君は採用だ」
私はオーナーに差し出された手を、
しっかりと握り握手する。
「君みたいな人材が何故うちのような店で働こうと思ったのかは不思議だが…
君のキャリアを考えると、そこまで苦労はしないと思う。
君の働きに期待をしているよ!」
「はいっ!精一杯働きます!」
「ところでこれから予定はあるかい?働けるのはいつからになりそうかな?」
「そうですね。今からでも大丈夫です!本日は予定を一切入れておりませんので、是非とも!」
「それは、良かった!では…まず店の歴史とグループについて説明した後、
店内を紹介するよ」
「はいっ!お願いします」
採用…されてしまった。
本当に…やってしまった。
元気な態度とは裏腹に
心の中は焦りやなんとも言えない感情が渦巻いた。
面接では、しっかり受かるように志望動機や自己PRをこれでもかとしておきながら、実際には不純な動機でこの店を選んだのだ。
ブチャラティ さんに会えるかも知れないという不純な動機を隠しつつ、仕事は仕事。
雇ってもらった以上は死ぬ気で働きたい。
給料面は前職より下がるけど休日の面では充実していた。
思えば、前の会社は外資系(Jappon)であり、イタリアの風土とは違った働き方だった。
上司以外は別になんら不満はなかったけど、こうも違うのかと驚くほどだった。
オーナーの説明をしっかりとメモを取り頭で反芻する。
仕事内容はオーナーの言った通り、前の仕事に比べたらとても余裕が持てそうだとも感じる。
だけど、油断は禁物。どの職種も働いてみないと分からない大変さがあるのだろうから…。
『Libeccio』
レンガの外観にシンプルなドアのこの店の店内中はそこそこ上品さがあり、知る人が知る隠れた老舗なのだと。
歴史を聞く限り、かなり古くからやっているようだった。
まだ店を開ける時間ではない為、席はガラリと空いている。
オーナーは店内を見渡しながら私に小声でそっと言う。
「君には最初に話しておくが…今はどこもかしこも、ギャングに売上の一部を渡しているのは君は知っているかい?」
「いいえ…知りませんでした」
私の働いていた会社も実は裏で繋がっていたりするのだろうか。
働いている時の私は全くと言っていいほど関わりはなかったけど、飲食関係はそうなのかも知れない。
「うちの店だって例外ではないがね。その代わり、とんでもない客を店からつまみ出してくれるし、店員や私が直接何とかしなくて済むんだ。その手間賃含めて一部を渡している。この店は、最近力を増してきた『パッショーネ』という組織の管轄になっているんだ。だから、ギャングがこの店に来る事もあるが君はここで働けるかい?」
オーナーは不安そうに私を見る。
もしかしたら、ブチャラティ さん以外の『パッショーネ』のギャングが沢山出入りしたりするのだろうか…。
「えっと…いきなり刺されたり、銃で撃たれたりしませんよね?」
私がそう言うと、オーナーは吹き出した。
「西部劇のような事はまず起こらないよ…彼らギャングだって、こんな店内の目立つ場所で騒動は起こしたくないはずだよ」
テレビのドラマや映画などの印象しかなかったので、おかしな事を言ってしまい恥ずかしくなる。
「そう…なんですね。ギャングと言うと怖い印象があって…」
「その印象は正解だ。だがギャングと言っても、この店を気に入ってくれているギャングはかなり紳士な男なんだ。
彼のことは、それこそ彼が少年時代から見てきているから間違いない。」
オーナーが言っているのは、恐らく_ブチャラティ さんの事だろう。
あの情報屋さんが言っていた事に間違いはなかったみたい。
しかし、ブチャラティ さんの事を少年時代から知っているとなると…尚更…彼目的でここにきた事は意地でもバレる訳にはいかない。
「お、オーナーがそこまで信頼するギャングさんなら、怖くないかも知れないですね。安心して働けます!」
ぎこちない返事をする。
「だが、まぁ相手はギャングだという事で極力下手に関わらない方がいいと言っておこう」
「そう、ですよね」
そのギャングと関わる為にここに来た私は苦笑いしかできない。
「とりあえず、仕事についての詳しい説明は彼に任せようと思う。リッカルド…」
オーナーが丹念にフォークを磨いていた
いかにもデキる男を体現したような男に声をかけた。
リッカルドと名前を呼ばれた男はこちらに来て、
「この…お嬢さんは?」
私をチラッと見る。
端正な顔をしたこの男はどこか厳しそうな
神経質そうな印象を受けた。
「今日採用にしたソフィアだ。仕事について詳しく説明してくれ。」
「よろしくお願いします」
私は、このリッカルドさんから詳しい説明を受ける事になった。
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