ブチャラティ 長編夢

□6.Portale III
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第2章「Portale III」
Capitolo2《扉 03》


ソフィア :side





気分の乗らないまま職場に着く。
あんな気持ちの悪い夢を見たら、
気落ちするのも当然だった。

嫌な上司はいつも通り
遅れて出勤してきた。

「Buongiorno」

上司に挨拶をすると、

「ブォ、ブォンジョールノ」

ややぎこちない挨拶が返ってくる。
体調でも悪いのだろうか。
私の方をチラッと見た時の上司の表情が
露骨に曇る。

「体調でも…悪いのでしょうか?」

「いや、そんなことはない。
 心配してくれてありがとう。
 君は君の仕事に集中してくれ」

傲慢な上司の珍しい様子に少しだけ心配になったが、
私はそのまま仕事に打ち込んだ。

ーーしかし、
心配して損をしたと思い知る事になる。

上司が本来、やらなければいけない仕事を
やっていなかった為、
取引相手から取引を打ち切りにするという話が
飛び込んできたのだ。

上司が普段から仕事を部下に振って手柄にはして
いたのだが、自分で仕事をしていない為どれくらいの
要力がいる仕事なのか分からず、
上司より更に上の上司から仕事を受けていたらしい。

部下たちの犠牲によって
一番上の上司からは仕事ができる人間だと思われていた。

仕事を振る部下は 
すでに現段階でかなりの仕事を振っていてできない。
その現状の中で上司がやった行動は、

その仕事をただ、放置≠オた。

放置すれば当然そのツケが回ってくる。
追い詰められた上司は、
私に全ての責任を押し付けた。

口だけはうまかった上司。
上の立場の人間に媚びる事に関しては一流だった上司。

つい先日、本当にミスをした私を
今回の仕事を果たせなかったものに
仕立て上げるのは簡単だったのだろう。

私の訴えなど上は聞いてもらえず、
私はクビを切られる事になった。

「仕事は今日1日までだ。
 明日からは来るな」

責任を取るのが上司。
それが普通の会社の上司の果たす義務だが、
それすら気づかない上司より更に上の人間も
やはり同類なのかも知れない。

そう思うと、
この会社で仕事をし続けるより
辞める良いきっかけになったのかも知れない。

_ッ

だけど…!

悔しいッ!

__やっぱり悔しい。

それなりに熱意を持って仕事をしていたのに、
こんな風に陥れられて会社を追われるなんて。
私は今まで持ったことのないほど

憎い

真っ黒な感情が心を支配する。
憎いが、どうしようも無い。
腹わたが煮えくり返りながらも
私は他の人間に迷惑がかからないよう、
途中まで進めていた仕事の引き継ぎをする。

同じ部署の人間は、すごく同情してくれた。
しかし、彼らも仕事に追われ、
人のことを気にする余裕もない。
更に仕事を増やしてしまった事を申し訳なく思いながら
引き継ぎ書類を作成する。

元凶の上司は
私に会うのが怖いからなのか、
一切、姿を見せなかった。
どうせ、どこかで時間を持て余しているのだろう。
もう、私には関係ない人間だが…。

取引相手には担当が変わることの謝罪と
メールで次の引き継ぎ先の
人間のメールアドレスを送る。

自分のデスクの周りをしっかりと整理する。
情報は残しておかないと次の人が困るよね。

私が会社を出る頃には
案の定…すっかり夜も更けていた。



明日から、
何もない。


実感が湧かない。

だけど、本当に明日から
何もない。


そんな空虚な気持ちのまま
私は足だけ動かしていた。

歩いているというよりは、
目的もなく、ただ足を動かしていると言った表現が
正しいくらいに…。


道をすれ違う、
楽しそうな酔っ払いの笑い声。
男を待つ娼婦の甘い勧誘。
揉めている警察とチンピラの怒声。

何を聞いても、何を見ても無感情のまま
気がつけば、
あのワインバーの前まで来ていた。

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