ブチャラティ 長編夢

□4.Portale
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第2章「Portale」
Capitolo2《扉 01》



ソフィア :side




昨日は夕方に差し掛かる前にブチャラティと別れ、
彼の家からはバスでおおよそ1時間ほどの距離にある自宅に帰宅した。

昨日の無断欠勤の謝罪から朝は始まり、
自分のデスクの上のこれでもかというほど
山積みになっている書類に手をつける。
パソコンを付ければメールも未読が10何件ほど。
並行して進めているプロジェクトを確認する。


「珍しいな。昨日は無断欠勤するなんて…」

職場の上司がコーヒーを片手に、
私に声をかける。

「その節は申し訳ございません。昨日は体調崩していました。ご迷惑をおかけ致しました。」

「昼はどうするんだ?」

「その辺のお店で済ませる予定です」

「俺と一緒に行かないかい?」

上司が嘘っぽい笑顔で私に笑いかける。私は正直に言うと、この上司が本当に心の底から嫌いだった。入社してすぐこの上司の部下として配属されたが彼と仕事をすればするほど、彼とは仕事をする上で決定的に合わないと思った。

「…えっと…、お昼と言っても仕事のキリがつくまで取らないつもりですので、どうぞ、私のことはお気になさらないでください。」

「あっそ。こういう時上司をたててランチを優先させるべきなんだが、やっぱりお前は仕事というのを分かってないし、仕事できないよなぁお前」

「…ッ、申し訳ございません。」




********

*****





この上司の口癖は『仕事できないよなお前』。

そういう彼が仕事ができる男かと言われたら、そうではないと、この仕事ができない私≠ナすらわかるのだ。


彼のやり口は仕事を全部、部下に振る。本人は自主性を伸ばす為という言葉を使うが実際彼自身、その仕事のやり方を知らないし、やりたくないのだ。仕事を振った上で俺に聞くな自分で考えろという言葉だけでうまくやってきた男だ。そんな、彼でも管理職になれてしまっているのは彼の上司への媚びる能力、外聞を気にする能力、部下の手柄を自分の手柄に変換する能力が抜きん出て高いからだろう。

せめて、配属先が違っていればと思う。彼に振られた膨大な仕事。転職したばかりで何もかもが分からない日々。そんな中で、仕事のやり方を聞ける相手がいない中、自分で考え答えを見つけようとして仕事をしてきた。

次第に私の心は
仕事ができる人間じゃない事への絶望が募った。

仕事ができる人間ならば教えられなくても、何もかも苦なくできるのかも知れない。

仕事に追われ、時間に追われ、
罵倒され続ける日々、
そうしている内に
脳が次第に回らなくなっていった。

先日、大きなミスをやらかしてしまい、
沢山の人に迷惑をかけてしまった。

その時も上司は私を個別の別室に呼び出し、
『仕事できないよなお前、俺の仕事を増やすなよ』から始まるお話…

あの時…

私の心に大きなヒビが入っていったのを感じた。
中にあった生暖かい液体は
全部その隙間から流れ去ってしまった。

心には空っぽのガラスの容器のよう。

それは、ワインバーでブチャラティさんに会う前までの
状態がそれだった。


良かったら…俺に話してみないか?

君はダメなんかじゃない

なんとかしようと足掻こうとしているからこそ深く悩んでいるんじゃないか?

諦めていないなら、これから変わる可能性は十分あるだろう…。だから、自分を責めすぎる必要はないんじゃないか?

彼の言葉を思い出すだけでも、
胸がすごく熱くなる。

彼の言葉に救われたのは、
それはずっと言われたかった言葉だったからだ。
職場で上司に否定され続けた私が
言われたかった言葉。

よし!頑張るぞ!

ブチャラティさんの言葉を思い出すだけで、
力が湧いてくる気がした。




********

*****



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