護衛チーム短編夢

□festeggiareー祝う
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「festeggiareー祝う」

◆相手:ブチャラティ
_______________



名無しさん :side






「そういえば…、ブチャラティの誕生日がもうすぐだよな」

「え?」

「名無しさん、呼ばれてないの?…俺も呼ばれてないけどさ」

赤が垂直に落ちていく。

スポンジの破片のみを残した純白の円の中に華麗な着地をする。不時着ではなく本当に良かったと思う余裕さえ今の私には無かった。

ケーキの主役である苺をまさに口に運ぼうとしていた私に向かって、ナランチャがさり気無く私に聞いた。

『ブチャラティの誕生日がもうすぐだよな』

その言葉に私は驚きを隠せなかった。
私の反応にナランチャは口をあんぐりと開けている。マジかよと小さな声が聞こえてくる。今まで話に入ってくる訳ではなかったが、話自体は聞いていたらしいアバッキオまで信じられないという顔をする。

「おい、ブチャラティの彼女なのにお前知らなかったのかよ、随分と熱々のカップルだな」

彼が皮肉を言う事は珍しい事ではない。
普段であれば、また捻くれた事言ってると受け流していたのに今日に限っては酷く心に刺さる。

露骨に落ち込み逃げ場を失っている私に、
フーゴは流石に空気を読んだのか

「きっと、何を買うか困らせたくなくて直前で言うつもりだったのかも知れませんよ。でも今知れて良かったじゃないですか。何かプレゼントするのには十分間に合うんじゃあないですか?」

フーゴの言う通り、
本当に良かった。

「パッと何を渡せばいいか思いつかないけれど、かんがえてみる」

イタリアの誕生日事情は、日本人の感覚とはわけが違う。誕生日の人を周りが祝うのではなく、誕生日である本人がパーティーを開き周りを招待するのだ。

そんな訳で誕生日は覚えていなくても、本人から知らされる事に慣れてしまい、ついつい気にする事を怠っていた。

「まぁ、僕たちも呼ばれていないしブチャラティが準備している様子もないですからね。恐らく…本人も忘れてるんじゃあないですかね?」

それを聞いていた一同もあり得ると納得した顔だった。

「ククッ、良かったな。汚名返上できるチャンスだな」

アバッキオの言う通りチャンスだった。

「まぁ、僕たちも忘れてたってフリしますよ。それでいいですね、ナランチャ」

「名無しさんから祝われた方がブチャラティもきっと1番嬉しいと思うぜ」

みんなにそう言ってもらえたので、私は彼にどのようにサプライズするか考える事にした。




… … …


… … …




ブチャラティ :side





「なぁ、今日あんたが終わってない仕事ってなんだ?」

「終わってないどころか、今日という日が始まったばかりだろ」

全くおかしな話を朝からされて、困惑するが顔には出さず一言だけ、

「この仕事を片付ける予定だ」

とアバッキオに向かってひらりと見せる。

「その仕事はミスタに任せてもいいんじゃないか?もう少し経験を積ませても俺はいいと思う。…決めるのはあんたの勝手だがな」

その言葉を受けて、少し考えてみる。
アバッキオがミスタの事を気にかけるのは珍しいが、確かに経験を積ませる意味でもこの仕事は丁度いいのかも知れない。

「そうだな……、ミスタ任せてもいいか?」

側で雑誌を読んでいたミスタがガタンと立ち上がり、勿論だ!任せてくれて問題ないぜ!と威勢良く引き受ける。

やけに、やる気があるな…

「任せた」

そしてミスタに依頼の紙を手渡した時に突然鳴り響く携帯電話。
俺がすぐ取り耳に当てると、咀嚼音の合間に聞こえる低い声…すぐにポルポさんだと分かった。

『ブチャラティ…、君とっては悪い知らせだ。名無しさんが捕まったらしい』

「なんだって!!?」

『場所は分かっているが、もう遅いかも知れんな…』

「ッ!!!」

目の前が真っ暗になる。
俺はよろめきそうになる足をなんとか踏ん張り、今やらなくちゃいけねェ事を最優先で考える。

「場所を教えてもらってもいいですか?」

『場所は……』


… … …


場所を聞いた俺は、チームメンバーに直ぐに伝達する。俺が名無しさんが捕まったと話すと口をあんぐりと開ける一同。

「俺は今直ぐ、助けに向かうが一緒について来る奴はいるか?」

「勿論、俺らもついていく」



郊外の道を一台の車が飛ばしている。夏を引きずった暑さとは反対に俺の額には冷や汗が浮かんでいる。

俺はハンドルを握る手に更に力を入れた。

名無しさんの事で頭が一杯だった。
生死の天秤は右にも左にもすぐに傾く世界がこのギャングという世界だと理解していなかった訳ではない。重々承知であった、俺にもその結果を受け入れる覚悟がある。だが、名無しさんの事を考えると話が全く違うものになる。彼女だって身の危険があると承知でこの世界に入ったはずだが、いつだって俺は彼女が失うのが怖いんだ。

最近は彼女も立ち回りが相当上手くなり危険はほとんど潰す動きをしていたので、すっかり安心しきっていた。

それがまさかこんな事になるとは……。

ッ!

彼女の無事を祈りながら飛ばしていると、目的の場所に到達した。
海辺の近くにあるあるだいぶ前から使われていない廃墟だ。車は止まっていない事から犯人はそれ以外の方法でここまで彼女を連れてきたのだろう。

「ここか。ここから先何があるか分からねェからな。お前ら充分用心しろ」

「ああ…」

自分の気配を殺し、ゆっくりと様子を見てみる。室内に足を踏み入れたが人の声すら聞こえない。周りのメンバーも息を殺していたが人の気配がなくお互いの顔を見合わせていた。ポルポさんの情報を疑いかけたその時、奥の部屋から人の気配を感じる。

俺はスティッキィ・フィンガーズを使って中を覗いてみる。

名無しさんッ!!

そこには名無しさんが倒れている。

まさか…嘘だろッ

素早くジッパーで扉を切開した


「おい!名無しさん」

気が付けば声を出して彼女に駆け寄る。
目を瞑った彼女の身体を揺さぶれば、
弱々しくだが、確かに声を発した。

「ブローノ…ごめん…」

その瞬間、彼女が生きていたことの安堵で俺は目元に熱いものが溢れて来るのを感じた。

「名無しさんッ…本当に良かったッ!敵はどうした?」

俺がふと思い出したよう彼女に聞くと、
弱々しい声で彼女は

「ブローノ……下に連れて行って」

そういい俺の身体でなんとか、自分の体を支えてゆっくり歩き始める。

「おい…大丈夫か?」

「一緒に来て……」

彼女とともに一階の何気ない、もと書斎であっただろう一階の場所の床を指差す。
彼女が書斎の本を一冊引き抜くと…

廃墟に似合わないスムーズな音を立てて
床が開いた。そこに地下へと続く階段が現れる。目を丸くする一同をよそに、そこに連れて行ってとせかすので俺は名無しさんに気遣いながらも、暗い地下への階段を足を進める。その先に明るい光が扉が見えた。

「扉をあけてみて」

強い口調でいう名無しさんに、どうしたんだと思ったが、ひとまず言われた通りに扉を開ける。


そこには……

!?

真っ白な部屋に、カラフルな風船とそして10人くらい座れそうな椅子と長いテーブル。そのテーブルには豪華な食事と巨大なケーキが載っている。

部屋のフラッグには
Buon compleannoの文字が…

誕生日おめでとう??


俺が目の前の光景に呆然としていると、弱々しかった名無しさんが突然元気になり、俺を抱きしめて誕生日おめでとうと言ってくる。

どういう事だ?

色々なことが起きすぎて、思考が停止した頭をゆっくりと覚醒させていく。

ずっと黙っていたフーゴが

「ブチャラティ……今日は9月27日ですよ」

そう言われてようやく、意味を理解した。

最近は忙しさも相俟ってついそんなこと忘れていた。

そうか今日は俺の誕生日だったのか…。

「お前たちグルだったのか」

俺が周りを見回すと、そわそわした様子で何も言わない一同になるほどと理解した。

「ポルポさんからの電話は?」

「ポルポさんにも協力してもらったの。ブローノの誕生日にサプライズパーティーがしたいと言ったら、快く引き受けてくれたよ」

……ポルポさん…、なんで止めなかったんだ


「サプライズパーティーって……、俺はどんな思いをしたと思っているんだ!心臓が止まるかと思ったんだ!勘弁してくれ」

「驚かないとサプライズじゃ、ないじゃないッ!」

「祝う気持ちは嬉しいが、こんな思いは二度と御免だ」

俺が溜息交じりに言うと、なんだかジト目でこちらを見てくる。そんな目を捉えながら聞いてみる。

「この後どうするんだ?」

「みんなとここのご馳走食べて、ブローノと同い年のワインを見つけてきたので乾杯する」

「それは…最高のプランだな」

「ブローノ、あらためて誕生日おめでとう!!!」




《festeggiareー祝う》
…end
2019/09/27

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