護衛チーム短編夢

□la perplessitàー当惑
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「la perplessitàー当惑」

◆相手:ブチャラティ

_______________


名無しさん :side





「君にもし…最愛の人がいないと言うなら、俺にもチャンスはもらえないだろうか?」

カウンター越しの彼は、彼自身が先ほど注文したドルチェを私が箱に詰めている様子を眺めながらサラっと言い放つ。

私はイチゴのドルチェを詰めながら、一瞬彼がなんと言ったのか…そして誰に言ったのかと思い、辺りを見回してみた。

私の周りを見回しても私以外いない。

そして、彼は真っ青な海のような…そんな美しい瞳で私を覗き込みながらもう一度言う。

「聞こえていなかったようだから、もう一度言うが…。俺は君の事を考えると、何も手につかなくなっちまうほどに、どうやら相当惚れ込んじまったようだ。もし君に、最愛の人が今は偶然いないと言うなら…俺と付き合わないか?」

「ええと…」

私が困惑していると、彼はハハと笑い、

「返事は今すぐに出さなくてもいいんだ。少しでも考えてくれたら…俺は嬉しい。だが、あまりにもしつこい男は名無しさんも迷惑だろうから、そうだな…二週間後に答えを聞いてもいいかい?もし、嫌ならキッパリと振ってもらっても構わないさ」

「は…はい」

「また二週間後に返事を聞かせてもらいたい」

とりあえず、私はイチゴのドルチェを梱包し終わり、照れながらも彼に渡す。彼はレジでの金額より多めに私に払ったかと思うと、爽やかなウィンクを私に飛ばし店を出て行く。




どうしよう…

まだ、胸がドクン
ドクンと脈打つ。

私はたまに店に買いに来る彼、
ブチャラティさんの事が好きだった。

それこそ私の一目惚れだった。
彼がギャングである事は町の噂でわかっていた。この町ではギャングという存在は特段珍しいわけではなかったが、ふつうに生きていたら大した関わりはない別世界の人間。ギャングと聞けば、少なくとも、世の中では関わりたくない類の人種だった。

彼だけは…。

彼だけは違った。
頼もしくて、この町の住民の悩みを聞いたり彼はその仕事とは似つかないほどに優しく爽やかな男性だった。

同じ店で働く女性達の間でも度々話題にあがるのが彼だった。

彼と付き合えたら…もし、付き合ったら…だなんて妄想はおこがましくて一切していなかったし、彼がお客として来た時にこっそり見つめる事しか出来てはいない。彼から話しかけてもらえた時は、心臓の鼓動がうるさくなり緊張からちゃんと話せていたか自信がない。

それなのに、彼からまさか、

付き合わないか?

だなんて言葉をもらえるなんて…

2週間後に、返事か…。


どうして私の事を好きになったのだろう?
いくら考えても思いつかないや。


彼からの告白は嬉しい出来事のはずなのに、すごく不安が拭えない。

ギャングと付き合うってどういう事なんだろう…。ギャングの人が連れている女性って物凄く美人なイメージがある。彼の隣にいるのが私みたいな平凡な女で彼はいいのだろうか?

彼は何をしても絵になるし、その隣を私がいると何だか邪魔なんじゃないかなと思う。台無しにしてしまう気がする。

あんな女と一緒だなんて…ってもし彼がヒソヒソ笑われたらどうしよう。私のせいで恥をかくブチャラティさん見たくない!

ついつい考えすぎてしまう。
それが私の悪い癖。

それに何となく…
本当になんとなくだけど、
彼という存在はいつか遠い未来と言わず何処かに行ってしまうんじゃないかって感じる。

今は恋といっても憧れに近いのかもしれない。その憧れた気持ちから付き合う事で掛け替えのない存在になってしまったら…

もしその彼が…私の前からいなくなってしまうなら私はもう立ち直れない気がするの。


2週間後…


彼は約束通りに店に来た。
彼はドルチェを注文しながら、私に問いかける。


「返事を聞かせてもらってもいいかい?」

「あ、あの…!!ブチャラティ さん!私…考えたんですけど、ブチャラティさんは私で本当にいいんですか?」

「逆だ。俺は名無しさんじゃなきゃ付き合いたいとは思わない。だから君じゃないといけないんだ…」

「その…貴方の言葉を疑うわけではないんですけど、でも、私を好きなってくれたって、本当かどうか分からないです。ブチャラティさんの事は私も好きなんですけど…よく分からないまま付き合うのは不安なんです」

「そうだな…試しに一週間付き合うってのはどうだろう?それで違うと感じたなら、そのまま別れればいい」

そういう彼は普段見せないような子犬のような瞳をした。
こんなの断れるわけがない。

「お試しに一週間、よろしくお願いします」

「ああ、もちろんだ」  


… …

… …


こうして私たちは一週間付き合う事になった。
デート中の彼は本当に優しくて、それこそお姫様のように扱ってくれたせいでほんの少し調子に乗ってしまったのかも知れない。

ブチャラティさんに紹介された、彼のオススメのリストランテでディナーを楽しんでいると、そこに現れたのは若くて綺麗な二人組みの女性。

二人の女性は私には目もくれず、
「ブチャラティ、久しぶり!!」
と声をかけテーブルの前まで来る。

そこで…初めて私の存在に気がついたのか
さらっと声をかける。

「えっと、ここに座ってる女性は?」

「ああ、彼女は…俺の」

私はブチャラティさんがいい終わる前に言葉を遮り、
はっきりと私の言葉で被せる。

「私はちょっと、たまたま食事を一緒にしにきただけです」

私の言葉を聞いた二人の女性は安心したと言う表情をした。

「そうよねぇ…そうだと思った。でも邪魔しちゃ悪いから行くわね」

そんな風に手を彼に向かって振って
離れる女性二人。


こっそり会話している声を聞いてしまった。

「ブチャラティ…ってまさかあんなのが好きって事ないよね」

「流石に違うんじゃない?」

「確かにあんなチンチクリンじゃねぇ〜?』

「身の程知らない女が彼の優しさにつけ込んだのかと思って焦ったけど、やっぱり、流石にねぇ」


言われなくてもわかっていた。
だって不釣り合いなんだもの。

私は必死にスカートの裾を握って目を下に伏せていると、突然ブチャラティさんは去って行く彼女達に向かってはっきりと言い放つ。

「この女性は俺の恋人だ。彼女に失礼な態度をとってみろ…相手が女だろうが、加減する気はねぇぜ?」

すると目の前の二人はひどくショックを受けた表情になり、
その場から離れていった。

これがきっかけで私はブチャラティさんと一週間ではなく本格的に付き合うようになった。
彼がどうなるか、私がどうなるかなんて未来はわからない。
それでも私は、以前よりは一歩成長できた気がする。





《la perplessitàー当惑》
…end
2019/07/30

【Request: ブチャラティと付き合うのに不安な彼女の切甘夢】


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