護衛チーム短編夢

□Locale Neapolisーネアポリスパブ
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「Locale Neapolisーネアポリスパブ」

◆相手:ブチャラティ
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名無しさん :side




私はパブでワインをゆっくり飲みながら、夢心地に浸っていた。

2日前の出来事を思い出してみる。

珍しく連休が取れたので思い切って旅行に行こうと決意していた。日本国内というよりずっと行きたかったイタリアへ。イタリア語は少しは勉強していたので、本当に少しなら分かる。友達を誘ってみたが生憎休みが合わず、それでもどうしても行きたくなった私は思い切ってパスポートと飛行機のチケットを手にイタリアに向かった。

日本とイタリアでは時差がだいぶあるので、飛行機の中でほぼ一日を過ごし、たどり着いた時にはヘロヘロになっていた。しっかりとホテルで休んだ後に、日中は有名な観光名所を回って、夜はナポリの美しい夜景を眺めながらレストランで食事をとっていた。そこでどうしても本場のパブやワインバーに行ってみたくなり、ふらっと寄ったのだった。

店の中ではサッカーの試合がモニターに映し出されている。それに対し仲間たちとガヤガヤと話す男性客。よっぽど仲がいいのかペアルックのような女性客がひたすら可愛い笑顔で話し続けている。私は1人で来たので特に誰かと話すこともなく、このお店の雰囲気に浸っていた。軽快な音楽がかかり心地よい。ワインをゆっくりと煽っていると、知らない男がいきなり話しかけてくる。

「君、可愛いね」

ん?日本語…?

でもその言葉くらいはイタリア人でも知っていて日中の観光をしてる最中に何度か声をかけられた為、対して気にしなかった。
よくあるナンパかと思った。
この国の男性は女性に声をかけない方が失礼だと思っている節があるので、本当かどうか分からなくても信じられないくらいにロマンチックな声掛けをしてくるのだ。
だから、それは馴れっこなので適当に流そうと…相手の方を見る

「そんな事ないですよ。でも、ありがとう」

そう声をかけながら気づくが、相手は東洋人の男性だった。もしかして私と同じ日本人だろうか。イタリアでは日本人観光客だけでなく、中国、韓国の観光客も多い。

「同じ日本人に会うなんて珍しいね。旅行かい?」

「まぁ、そうですね」

イタリアでまさか同じ日本人に遭遇するとは…ちょっと話してみようかなと思った矢先に瞬間に背中にゾクリとした感覚が走り、私は顔を引攣らせる。いきなりナンパしてきた男が私の肩を引き寄せてくる。

え、いきなりこんな風に肩引き寄せる??

「あ、あの!困りますっ」

信じられない!

「ねぇ、恋人いるの?いない?じゃあ、いいじゃん」

私の回答を待つまでもなく強引に迫ってくる。手が自然と腰にまで回され、私はとても困っていると…


「おい、嫌がってるのがわからねぇのか?」

白いスーツにおかっぱの髪が印象的な男性が私をナンパしてきた男の腕を捻り上げ、
低い声色で脅すように言う。

「いててて、何なんだよ、お前は…」

男は腕を掴まれながらも、彼を睨む。

「初対面の女性にそんなナンパの仕方は、あまりにもかっこ悪くて見ていられなかったんだ…。何か反論でもあるかい?」

そう言われたナンパ男は、口を開こうとする。が、しかし、なぜか口が開かない様子だった。

驚いたように目を丸くしながら、ナンパ男は突然手を口に抑えモゴモゴとし始める。まるで唇が縫われているかのように話したくても話せないといった異様な様子だった。

「どうやら、反論は無いようだな。」

そんな男を放っておいて、ナンパ男から助けてくれた風変わりな彼は少し屈み、私と目線を合わせ爽やかに話しかける。

「Signorina…大丈夫かい?」

彼の後ろを、先ほどのナンパしてきた男がパニックになりながら店を出て行く。店長らしき人が食い逃げをされ、大きなため息をついているが…このおかっぱの彼は気にしていない様子だった。

「君は…ジャッポネーゼかい?旅行中に災難だったね」

「あ、あの!本当にありがとうございました!こんな見ず知らずの女性を助けてくれるなんて親切ですね」

「君みたいな可愛い子が困ってたら、駆けつけない男はいないさ。イタリア旅行を楽しんで…チャオ」

そう言ってウィンクを私に投げかけた後、支払いをさらっと済ませパブの扉から出て行く彼に私はいとも簡単に心を奪われてしまった。

ウィンクした時の彼の笑顔を思い出すだけで、心臓がキュンっと跳ね上がってしまう上、あんな言葉をさらっと言っても似合ってしまう彼がずるいと思った。

「お嬢ちゃん、あの男はやめときな」

突然、側にいたおじさんが話しかけてきた。

「え?」

「ああ見えても、この街を縄張りにしてるギャングだからね」


ギャング…

あんなに優しくて爽やかだったあの人がギャングだとは到底信じられなかったけれど、奇抜だけどスーツをしっかり纏っていたことを思い出す。

「彼の名前はなんていうんですか?」

「ブチャラティっていう男だよ」

「ブチャラティ…さん」

旅行中に出会った彼、ブチャラティさんの事は
忘れられそうにないと素直に思った。


《Locale Neapolisーネアポリスパブ》
…end
2019/06/30

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