護衛チーム短編夢

□Campi di granoー麦畑
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「Campi di granoー麦畑」

◆相手:プロシュート
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プロシュート :side





「アニキィ…俺なんか気に障った事言っちまったかなぁ」

「ペッシよぉ、お前はなーんにも気に触る事は言っちゃいねーよ。だから、ビクビクしてんじゃねェ」

「じゃあアニキは一体なんでそんな表情をしてるんだ」

「…ここに来るとふと思い出しちまうんだずっと古い思い出をな…」

俺は小麦畑を眺めながら、田舎のまっすぐに伸びた道をアクセル全開で飛ばしている。
6月の終わり頃の辺り一面の小麦畑は美しく黄金に色づき、小麦が風でサワサワと揺れている様はまるで金色の海が波打っているようだ。

あの日も、こんな景色を眺めていたな。
忘れもしないガキの頃を思い出した。

「プロシュート、あなたの髪の色と一緒で金色で綺麗だね!」

今でも彼女の声がすぐ聞こえてくるほど鮮明に蘇ってくる。

あれは名無しさんという幼馴染がまだ身近に居て、
俺がこっちに身を置く前のかなり大昔の話だ。

俺はまだ10歳くらいのクソガキで、彼女_名無しさんは当時の俺よりも二個ほど下だった。
俺はアルコール中毒の父親からよく殴られ家を飛び出すことが多く、そんな時は決まって小麦畑の中にいた。

「やっぱりここだったのねプロシュート…泣いていたの?」

「泣いてなんかいねぇよ。ここにいれば名無しさんと会えるかなって思っただけだよ」

「プロシュート、大好き!」

「名無しさん!そんなに、くっつくなよ!」

「プロシュート照れてるの?」

「照れてねぇ!!」

俺たちはまだずっと幼く、
それも確かな恋と言えるかはわからない。
それでも名無しさんと一緒にいれば、殴られた事も嫌な事も全部吹き飛んだ。

ある日、小麦畑の中にいても
あいつが一向に来ない日々が続いた。

俺は恐る恐る、彼女の家の近くまで行くと
近所の大人が噂をしていた。

「名無しさんちゃん、結構ひどいらしいわ。入院してるみたいだけど、なかなか良くならないんだって」

「まだ、あんなに若いのに可哀想だわ」

俺はその言葉でいてもたってもいられなくなった。

俺は病院まで行き、
何とか会えないと掛け合った。
そこで名無しさんの母親と遭遇する。
すごく優しい印象の素敵な人だったのは覚えていた。

「名無しさんからよく話を聞いてたわ。あなたがプロシュート君?来てくれて嬉しいわ」

「あの…名無しさんはどうしたんですか?怪我ですか?」

俺がそう聞いた時、泣き出しそうな顔でその人は俺にこういったのを覚えている。

「怪我だったら本当に良かったんだけどね。プロシュート君、あの子はね、もしかしたら、もうなかなか会えなくなっちゃうけど、今しっかり元気付けて欲しいの」

その時の俺は言葉の意味をよく分かっちゃいなかった。だが、病室についた時の彼女の元気のなさそうな微笑みを見た時、無理に笑っている様子に嫌なものが背筋に走ったのを覚えている。

「プロシュート!きてくれたの嬉しい!」

「ああ、ようやく会えたって俺も嬉しいよ」

「全然遊びに行けなくてごめんね?」

「気にしなくてもいいよ、また元気になったら遊ぼう」

「うん!私も早く治してプロシュートと遊びに行きたいな」

次の日…

「プロシュート大丈夫、顔の傷、またお父さん?」

彼女は病室のベッドに横たわりながらも俺を気にしてくれていた。

「オレのことはいいよ。自分のことを治すことだけ考えろよ!」

「ふふふ…そうね、人の事言えないよね。私も早く治さなきゃ…」

そのあと静かになる彼女にハッとしたが、スヤスヤ寝息を立てていたので安心したのを覚えている。

また次の日…

そして次の日…

二週間くらい通っただろうか。

「大人になったら、プロシュートさんのお嫁さんになりたい…」

無邪気なお前はよく言ったもんだ。

「俺たちはまだ結婚できる年齢じゃないだろ!」

「早く大人に…ならなきゃ…ね…」

そして…
次の日は来なかった。

君が大人になれなかったあの日、
俺は何もしてやれなかった事が悔しくて悔しくてどうしようもなく腹立たしい。

君の大人になったらと言う言葉はまるで呪いのように俺の中でこだまし続けた。

ずっと俺は君の呪縛に縛られていた。

君が大人になれなかった分まで、
俺は長くいきなくちゃと。

もっと早く大人になれたら、君の夢だった結婚ができたのかも知れないと。



… …

… …


「アニキィ…、泣いてるんですか!?」

「泣くわけねぇだろうが!目にゴミが入っただけだ!」

「す、すいません!」

「おら、行くぞ。モタモタしてんじゃねぇ」


回想している間に目的の場所に辿り着く。
これからする事は人1人の命を奪う仕事だが、君にこんな事をやってるって知られたらどんな風に思うんだろうか…。

《Campi di granoー麦畑》
…end
2019/06/21

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