護衛チーム短編夢
□Occhi scuriー昏い瞳
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「Occhi scuriー昏い瞳」
◆相手:アバッキオ
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アバッキオ :side
眩しい日差しに目を細めながら、
俺は石畳みの上を特に目的もなく歩いていた。
それなりに、有名なブランドの店が連なっている通りに差し掛かる。
俺がショーウィンドウを眺めていると、不意にすれ違った女に突如、目を奪われた。
俺は…その女から目が離せなくなる。
彼女の放つ妙な妖艶さ…それは決して娼婦のような安い女ではなく、露出をたいしてしていないにも関わらず、うちから滲み出ている純粋な色香を漂わせていた。
俺の視線に気がついたのか、向こうもこちらをチラリと振り返った。
真っ白な透き通った肌にミスマッチした仄暗い瞳と目が合い、その瞬間に俺はなんとも言えない気持ちになる。
こんな事は生まれて初めてだ…。
俺と目があったその女は一瞬微笑み、そしてすぐに俺とは反対の方角へ歩いて行った。
勿論、一瞬すれ違っただけの女だ。
その日以外、彼女を見かけることはなかったし、俺自身探そうとまでは勿論思っていない。
… …
… …
あれから半年経った頃…ブチャラティからある命令が下された。
「アバッキオ…少しいいか?ポルポさんから直々に名指しで頼まれている事があるんだ。とある場所にこの日時に行ってもらう…場所は…」
待ち合わせ場所に辿り着くと
…偶然か…半年前に会ったその女が待ち合わせ場所にいた。
そして以前見かけた時にも増した
色香と昏い瞳でこちを見つめている。
俺がブチャラティから命令された事は
待ち合わせした場所にいる女性の指示に従って任務をこなして欲しいとの事だった。
まさかあの時すれ違った気になる女がこっち側の人間と思わず驚く。
「あんた…半年前に俺に会わなかったか?」
そう声をかけるとクスクスと笑い
「男の人はみんなそう言ってくるのね」
と笑った。
「ごめんなさい、あなたの事を馬鹿にするつもりはなかったの…」
俺の表情を察してか、困ったような顔をした後に、
「私はもっと前から、あなたの事はポルポから聞いていたからね…あの半年よりずっと前にね」
「あんた…一体誰なんだ」
「あんたじゃなくて、名無しさんよ。同じパッショーネの名無しさんって覚えておいて」
そう笑う。このパッショーネという組織はボスの正体だけではなく、チーム外の組織の仲間についても自分で調べなければ知りうる事はない。だからこの名無しさんという女が本当にそうなのかは今すぐにはわからねェ。
だが、こうやってポルポからブチャラティを通じて命令されてここにいるって事は信じるに値するだろう。
「名無しさん…俺の上司からは、名無しさんの言う通りのことをしろって言われてるんだが…一体どう言う訳で俺なんだ?」
「今日やって欲しい事は、あなたのムーディー・ブルースを使ってとある日時のとある現場を再現して欲しいの」
彼女の言葉に納得する。
なるほど、それは俺じゃなきゃ
できねぇ事だ。
「ああ。分かった」
それから彼女とともにその場を後にした。
公共の交通機関を使いだいたい2時間ほどで錆びれた街に到着する。
閑静な住宅街 の路地裏を歩いていると、
突然「着いた、ここの中よ」と声をかけられる。
そこはアパートの裏口だった。
彼女の顔を見ると酷く険しい。
無言の彼女に対し、俺も特に話すこともなくついて行く。階段をあがった二階のある部屋の前まで来ると彼女は鍵を取り出し、
扉を開けた。
その部屋に入って目で合図が送られたので俺もすぐに追って入るが…。部屋の中は乱雑に散らかっていた。
「空き巣にでも入られたのか?」
俺が問いかけに対して、彼女は何も答えない。ただ…一言、こっちにきてと言った。
そしてシャワールームの扉の前に屈みこんで
「ここ…、ここの場所で去年の9月4日の22時を再現して…」
そういう名無しさんの口調は静かで冷静だったが投げかける目には…深い怒りを感じる何か憎くて仕方がないという目をしていた。俺はスタンドを出し、ムーディ・ブルースで言われた日時まで遡り…そして、再生する。
そこには若い男が居た。
シャワールームの前で一度ノックした後、
男はそのまま玄関の方へと向かった。
すると…男は玄関の扉を開ける動作をしたが、一度大きく倒れる。
倒れた体が何度も跳ねるように震えている。
恐らく…何者かに何度か刺されているのだろう。
しかし刺されたその被害者の男は唇を噛み締め続けている。
その様子は痛みを堪え声を出さないようにする為のようだった。
そこでリプレイは終了する。
名無しさんの方を見ると、
唇を噛み締め、目元には涙を浮かべていた。
今殺された人間が…
名無しさんにとって大切な人間であった事が言葉にしなくとも十分にわかった。
俺は一応…声をかける
「次は犯人の方を再生するか?」
すると、彼女は震える声で静かに呟く。
「いいえ…犯人はわかっているし、この後、犯人は死んでいるわ、彼自身が死ぬ間際に、犯人をスタンドで殺したもの…、…だから、もう、そいつを見たくないの…」
「…、…お前が見たかったのは、本当にこれなのか?もう…終わった事なら、もっといい思い出がある場所でリプレイもできねぇ訳じゃねぇが…。」
普段の俺なら、用が済んだなら帰るぞと言って出て行くところだが俺は名無しさんをこのままの状態で放っておくことはしたくなかった。
俺の提案に彼女は首を横に振る。
その目は昏いままで、本当にこれが彼女の見たかったものか疑わしく理解ができなかった。
「思い出に浸りたい訳じゃないの。…ただ、私はあの人の最後をこの目に焼き付けておきたかっただけ…。あの時、シャワールームにいて、何もできなかった愚かな私自身を忘れないために…。
私がシャワーを浴びてなかったらすぐにきがつけたはずなのにね…。」
「今のリプレイを見る限りわざと声を抑えていたように見えた。だから気づかねぇーのは無理もない話だろう」
「…、…そうね。彼はきっと私の方に行かないように、自分が声をあげれば私がシャワールームから飛び出してしまうだろうと分かっていたから声を抑えたのだとわかるわ。…でも、私が何もできなかったのは事実よ」
似ていた。
自分のせいで同僚の命を失ったばかりのあの時の俺自身にそっくりだった。
だからこそ、気持ちがわかる。
抜け出せない暗闇の中に自ら入り込み、
そこで過去を後悔し続け、
未来を見ることなんてできない
そんな過去の俺の姿と被る。
「えっと、アバッキオさんだったかしら。あなたは暗殺チームじゃないわよね?」
突然そう声をかけられ、困惑する。
「ああ。まぁ、殺しを一切しないかと言えば嘘になるが、暗殺チームではない。名無しさん…お前はそうなのか?」
「ええ。私は暗殺チームの一人よ。だからこそ怖いの。死なんて簡単に忘れ去ってしまう。ターゲットの死も仲間の死も最愛の人の死も…心に焼き付けないとなんでも風化してしまうのが怖いのよ。おかしな話でしょ?」
そう自嘲気味に笑う名無しさん。
暗殺チームと聞けばおっかない連中だと思う。
人の血が流れてない冷徹な人間ばかりのイメージだった。
俺は今まで接点はなかったが、
目の前にいる名無しさんはそうではない。
「どうして、俺にそこまで心の内を打ち明けてくれたんだ?」
「そうね…何故かしら。…きっと、何となく。何となくあなたの目と私の目は似てるって思ったのかも知れない。一緒にするなとあなたは怒るかも知れないわね…あら、驚いたって顔ね」
名無しさんは俺の目をまっすぐ見て笑う。
「いや…俺も、最初に思ったのがそれだった。…まさか、あんたもそう思ってたとはな。」
「ねぇ、アバッキオさん。近くのバールに行かない?」
そう誘う名無しさんの心の中まではわからない。
だが…その目は少しだけ翳りが消え
どこか目を光らせていたのが印象的だった。
《Occhi scuriー昏い瞳》
…end
2019/05/22